【現地ルポ】シリア首都の今(後編)…政権崩壊の高揚と傷あと
シリアで長年独裁体制を続けてきたアサド政権が今月8日崩壊した。政権崩壊後初の週末にNNN取材班は隣国レバノンから、シリアの首都ダマスカスへと入った。圧政に苦しんだシリアの民衆の高揚と傷痕を現地で取材した。 【前半はこちら】シリア首都の今(前編)…ダマスカスへの道中で見た異様な光景 (NNNニューヨーク支局長 末岡寛雄)
■高揚とお祭り気分に包まれたダマスカス中心部の広場
国境を越えて1時間も走ると、車はダマスカス市内へ入る。高層団地が立ち並ぶ中、自転車をこぐ人や散歩する人の姿が目に入ってきた。幹線道路沿いには大量の平べったいパンを頭にのせたり両腕に抱えている人が歩いていた。平日より少し遅めの土曜の朝食だろうか。 我々はまず、中心部にあるウマイヤド広場へと向かった。世界最古の都市の一つとされる首都ダマスカスに都を置いたイスラム初の世襲王朝のウマイヤ朝の名前を冠した広場で、大きな剣のモニュメントがそびえ立っている。背後に町を抱く赤茶けた山の名前はカシオン山。ダマスカスを象徴する標高およそ1100メートルの山で、旧約聖書の創世記でカインがアベルを殺した場所と伝えられる。 土曜の朝、広場には従来のシリア国旗とは違う、反政府側の緑の旗を持つ人が続々と集まってきていた。圧政から解放されて自由になった喜びからだろうか、広場は独特の高揚感とお祭り気分に満ちあふれていた。行き交う若者らはみんな笑顔で我々に手を上げて近づいてくる。圧制下では外国人観光客はあまりいなかったためなのか、異邦人である我々に対し、ダマスカス市民は口々に「ウエルカムトゥーシリア」と笑顔で話しかけてくれ、スマホで記念撮影をせがまれる。広場にいた家族は、「アサド政権時は弾圧と恐怖で家の中でも自分の意見を言えなかった。勝利を祝うために広場に来た。まだ信じられない」と興奮した様子で我々に語ってくれた。 突如、広場の一角が騒がしくなった。そこに足を向けてみると地面には赤い血のようなものが流れ出している。群衆の中をのぞき込むと、ラクダの首が切り落とされていた。地元の人に話を聞くと、アサド政権の崩壊を祝って、ある裕福な人がラクダを9頭寄付。うち3頭がダマスカスに寄付され、肉は貧しい人に分け与えられるという。