本が読めないと悩む人へ。書評家・印南敦史さんに聞く「読書との向き合い方」
幼い頃のワクワクを取り戻そう
──印南さんが幼い頃、特にワクワクした読書体験はどんな本でしたか? 佐藤さとるさんの『だれも知らない小さな国』(佐藤 さとる 著、講談社)です。小学校2年生ぐらいのときにすごいハマって、コロボックル物語シリーズ全部をワクワクしながら読んでいたのを覚えています。 本棚のどこかに単行本がまだあるはずなんだけど、少し前にブックオフの100円コーナーで文庫版もみつけちゃったんで、うれしくなって買っちゃいました。 村上 勉さんのイラストもいいし、細かいことだけど、タイトルの「だれも」を漢字じゃなくてひらがなにしているところも好き。すべてが思い出に直結しているので、いまでも手にとるとワクワクするんです。 書店もなにかを探してるっていうよりは、ふらっと行ってみると、そこで出会いがある。偶然の出会いとか、そういったものが非常に重要だと思うんです。図書館も、目的を持って行くんじゃなくて、とりあえず行ってぐるっと歩いてみる。 「自分はこうだからこういうものを得なくちゃいけない」「こういう人間だからこれしか受け付けない」というこだわりは、自分が勝手に思ってるだけの話です。本屋とか図書館とかを歩いてみることで、自分のそういう固定観念が崩される瞬間があるんですよ。別にいまの価値観でも生きていけるんだけど、本との出会いで自分のストックがどんどん増えていく。 だから極論をいえば、その本を読んでしっかり理解できなくてもいいわけです。 パラパラっとめくっただけでも得るものがきっとあるし、読んでみて自分には合わないな、と感じたとしても、読めたことも読めなかったことも、すべての読書は無駄ではないんです。
ビジネスパーソンと本の関係が変化
──毎日のように本を読み、ライフハッカーでビジネス書を中心に書評を書く中で感じていることは? 10年ほど前と比べると、ビジネスパーソンと本の向き合い方が変わってきている気がします。 「自分の内面を豊かにするための読書が大切」だって、気づいた人が増えてきているような気が漠然とだけどするんですよね。 10年~15年前は仕事をするためにこれが必要で、すぐに情報を吸収したい、という理由で本を読む人が多かった気がします。テクノロジーとどう共存するか、で迷っていたり。 いまも具体的なスキルアップや課題に悩んで本を手に取る人は多いんだけど、そこにプラスして人間的な豊かさや深みを求めている人が増えた。よりよく生きるための生き方、みたいなものをつかみたいんじゃないかな。 ──たしかに、以前は会社と自分、だったのが自分のキャリアも会社に勤める、だけではなく選択肢が広がってきて、考えることの幅が広がったのかもしれませんね。 たとえばライフハッカーを10年前から読んでいる方が当時25歳だったら、今は35歳じゃないですか。当然その間に結婚したり子どもができたり、仕事一辺倒だけじゃなくて、自分の時間を取る意識が芽生え、ライフスタイルも価値観も変わっていると思うんです。 そこにこそ「本が入る余地がある」わけですよ。むしろ「本を取り入れない理由はない」っていうか。10年前に苦手だったとしても、10年後に考え直してやってみたら意外といいねと思うかもしれない。角度を変えてみるってすごく大切なことなんですよね。 だからまずは、読書のハードルをグッと下げて、本なんて読めなくて当然、読んでも忘れて当然って思った方がいいんじゃないですか。決して自分のせいではないと。本との相性もあるからね。 つづいて後編では、印南さんの人生に影響を与えた本や読書哲学について、本から遠ざかっている人でも読めるおすすめ本を選書してもらいました。 印南敦史さんが講師として登壇! 無料トークイベント「読みたいのに読めない人のための読書入門」<光文社新書ビジネス講座> 日時:2025年 1月10日(金)18:30~ 所要時間:90分(トーク60分+質疑応答15分+サイン会15分) 会場:紀伊國屋書店 新宿本店 3F アカデミック・ラウンジ 主催:光文社、共同主催:紀伊國屋書店 イベント詳細・申し込みはこちら>>
saori