AIが電力を爆食い! 坂口孝則「原子力や石炭火力も含めたフル活用を記載せざるをえない」
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「第7次エネルギー基本計画」について。 * * * 「頭が良い人ったって、しょせん限界はあるね」と思った。 以前、書籍『未来の稼ぎ方』を執筆する際に、過去の偉人たちが将来を予想するものを読み漁(あさ)った。しかしまったく当たっていない。故・大川隆法(りゅうほう)さんが書いた『新ビジネス革命』は例外的に余暇ビジネスの勃興やスモールシティ時代の到来を当てており驚いた(笑)。通常の論理思考ではなく、神がかり的でないと将来は予想できないわけか、と納得した。 人口動態だけは当たるといわれているものの、実際に過去の予想を見るとやはりズレている。未来予想は占いと同等くらいにとらえたほうがいいのだろう。 日本では「エネルギー基本計画」が2003年から策定されている。総電力需要を予想し、原子力、火力、再生可能エネルギー等、どのような構成で供給するかを論じたものだ。第6次までがすでに出されており、この12月に第7次の内容が固まる。 日本には50年までにカーボンニュートラルを達成する野心的な目標がある。人口減や産業のサービス化で総電力需要は減ると思われてきたため、石油・石炭・LNG(液化天然ガス)を大幅に減らし再生可能エネルギーを増やす予定になっていた。 しかし、予想もしなかったAIブームで活用されるGPUは電力を大量消費する。データセンターの整備が進めば進むほど、将来の電力需要は増える。LNGは減るどころか、むしろ需要が増えるかもしれない。しかしLNGを減らすと表明していた日本は産出国からそっぽを向かれた。 一般大衆は「電力構成なんて自分には関係ない」と思うかもしれない。しかし電力が満足に供給できなければ産業が誘致できない。国の豊かさと電力消費には相関がある。 さらに生活の電化も進んでいる。真冬と真夏の停電は命にかかわる。東日本大震災のとき電力各社は、テレビ局にお金を払って「電力使用を控えてくれ」というCMを打ち、売上を減らすという"逆マーケティング"によって急場をしのいだ。大規模な停電が各地で多発するようになって死人が出て理解が進むのでは遅い。 もちろん太陽光発電もいいが、発電に使用するポリシリコンの多くは中国の新疆(しんきょう)ウイグル自治区で生産されている。人権蹂躙(じゅうりん)状況をどう考えるか。また、晴れの日の昼間はいいけれど出力は不安定。蓄電池で電力を貯(た)めるといってもコストが見合わない。 次のエネルギー基本計画では、原子力や石炭火力も含めたフル活用を記載せざるをえない。 日本の電力会社は株式会社だ。株主の意向に従う。エネルギー基本計画は指針にすぎない。 しかし国家の指針は関係者に大きな影響を与える。原子力技術者や石炭関係者の伝承が途絶えたら後戻りできない。現実に即した対応を行政にはお願いしたい。原子力発電に関する理解も深まってきているのではないかと思う。 先日には、ついに東北電力が女川(おながわ)原子力発電所を再稼働させた。同発電所は東日本大震災以降ストップしていた。女川原発は東京電力福島第一原発とおなじBWR(沸騰水型軽水炉)だから、その再稼働は印象的な出来事だ。次は中国電力の島根原発が再稼働する予定だ。 これは私の主張であり、相当な私見だ。でもさあ、ただでさえ雰囲気が暗い日本なんだから、実際の街灯まで消えたらどうするのよ。 写真/時事通信社