深セン市民、香港へのマルチビザ復活 香港経済回復の起爆剤になるか
国務院は12月1日から深セン市民が香港に何度も来ることができる「一簽多行(マルチビザ)」を再開することを批准した。対象者は深センの戸籍を持つ人のみならず持っていない人も対象となり、対象者が1000万人増える。コロナ禍が明けてから香港は景気が低迷しており、経済回復の起爆剤になることが期待されている。(香港経済新聞) 現在、中国本土と香港の景気は思わしくない。中国政府としては人の往来を活発化させることで景気浮揚のきっかけの一つにしたい考え。11月30日には日本人が中国を訪れる際の短期滞在ビザを免除する措置が再開されたほか、来年1月1日からは、珠海の戸籍保有者は週に1回、マカオへの渡航が可能になるビザを始める。さらに珠海市横琴●澳深度合作区の戸籍保有者と居住証保有者においては、数次ビザの申請が可能になる。いずれも有効期間は1年間で、渡航1回当たりのマカオ滞在期間は最大7日間。このように、中国政府はビザについて包括的な見直しを図った。 深セン市民を対象にした香港へのマルチビザは2009年に実施されたが、当時の香港側の受け入れ能力や上水(Sheung Wan)での並行輸入問題が発生したことから、香港政府は2015年4月13日から1週間に1回、来港できる「一周一行」(=年52回来港可)というビザに変更した。 コロナ禍が明け、深セン市民のみならず中国本土の観光客が香港に戻ってくると思われていたが、実際はそうではなかった。2023年に香港を訪れた中国本土の観光客数は全体の78.7%を占めるが、逃亡犯条例とコロナ禍が発生する前の2018年と比較すると来港者数は53.4%分しか回復していない。人数にして2400万人も減少しており、観光を主力産業の一つとする香港としては経済回復のエンジンを失っていた。 それに追い打ちをかけたのが、香港市民が深センに行って、買い物や飲食などを楽しむ「北上消費」と呼ばれる消費行動である。米ドル高になったことでペッグ制を採用している香港ドルの価値も上昇したことで、物価が安い深センに向かった。その結果、香港は内需不足となり小売業や飲食業を中心に経済の落ち込みが顕著だった。多数のレストラン、小売店のみならず映画館までもが閉鎖に追い込まれている。 それを打開するため、李家超(John Lee)行政長官は今年の施政方針演説で、香港に1年間で何度でも訪れることができる数次ビザの再開について中国政府に提案するとしていた。 中国政府はその提案を受け入れ、12月1日からマルチビザが再開されることになった。深センの戸籍を持つ市民のほか、深センの戸籍を持たない市民も対象とすることになった。なお、1回の香港滞在は最大で7日間となる。これと同時に週に1度のビザの申請は中止となるが、有効期限が残っているビザ保有者は期限までそのまま利用できる。これまでは深セン市民は、平日は1日平均3万人、週末・祝日は8~10万人が来港していたが、これからは倍増すると香港政府は試算している。 この措置について、香港の飲食業界は大きな期待を寄せている。以前は12月の月間売り上げは110億香港ドル~120香港ドルだったが、2023年は100億ドルまで減少していた。再開により120億香港ドル程度まで戻るのではないか予想している。 ただし、コロナ禍の間に中国本土の行動様式も変わったのではないかとの分析もある。香港餐飲聯業協会の黄家和会長は、「政府などが提供するデータを分析すると香港独特のファミレスのような飲食形態「茶餐庁」のような深センにあまり存在しないような特徴的なレストランの売上は上昇するが、中華料理店は深センと同じ形態であることから差別化できず、価格も安いため北上消費が続き、継続して売上が下がる可能性がある」と話している。 小売業も同じで、外国製品を扱う店は深セン市民を引きつけると見られているが、深センにもあるような店または特徴のない店は売り上げが増加するかどうかは、何とも言えない部分があるとしている。併せて上水で起こっていた並行輸入問題については発生しないだろうと香港政府観光局は予想している。 今後も、香港市民は継続して「北上消費」を続けると見られているが、逆に深セン市民による「南下消費」が期待されており、これから本格化するクリスマス商戦を手始めに、香港経済が回復する起爆剤になるかどうかが注目されている。 ●=奥かんむりに号
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