「愛する男を寺で焼き殺し…」日本史上最凶のストーカー「清姫」伝説が禍々しすぎる
● 女性の正体が蛇という伝説は 『古事記』にも 実は女性が蛇に姿を変えて男を追い回すストーリーは、日本最古の歴史書である『古事記』に源流がある。その歴史は古く、日本人にとって馴染み深い物語でもあった。 例えば、日本の国土を産んだイザナギとイザナミの夫婦神の伝説――。 不慮の事故で死んだ妻のイザナミに会いたい一心で、夫のイザナギは黄泉の国を訪れた。そこで再会を果たしたイザナミは、地上に戻れるかを黄泉の神々と相談するから、その間は絶対に自分を見てはいけないといった。 だが、あまりに時間がかかるため、イザナギは妻を見てしまった。そこには腐敗した姿があり、屍には雷神がとりついていた。雷神とは蛇の姿をした神である。「腐爛した屍に蛇がまとわりついた姿をイメージすればよい」と、前出の阿部真司はいう。 イザナギは仰天して逃げ出した。「見るな」との約束を反故にされたイザナミは、怒って夫を追いかけた。イザナギは黄泉の国から出ると、入り口を岩で塞ぎ難を逃れた。 安珍と清姫の物語に似ているのである。
● 清姫の原型は 「イザナミ」と「ヒナガヒメ」という説も イザナミの伝説はのちにヒナガヒメの逸話に受け継がれ、同じく『古事記』に登場する。 ヒナガヒメは第11代・垂仁天皇の第一皇子・ホムチワケノミコトと契りを結んだ女性だが、その際に実は蛇身であったことが露見してしまう。 ホムチワケノミコトは驚いて逃げた。正体が蛇だと知られ恥をかいたヒナガヒメは逆上し、海を渡って追跡した。ホムチワケは命からがら逃げおおせた。 波打つ海をものともせず男を追う姿は、激流の日高川を渡る清姫とそっくりである。こうした類似から、複数の民俗学者が清姫の原型をイザナミとヒナガヒメに求めている。 気になるのは、『古事記』の神話が『大日本国法華験記』などを経て、なぜ、紀州で甦ったかという点だ。他の地域で伝説が再生されても良かったはずなのに、どうして和歌山だったのか。 その理由を前述の津名道代は、紀州に蛇を守護神とする一族がいたからではないかとの仮説を立てている。