東洋大の石田洸介の激走に青学大の鶴川正也も「感動しました」 帰ってきた高校時代の2トップ
関東の大学の長距離ランナーにとって箱根駅伝と並ぶビッグイベントの関東学生陸上競技対校選手権(通称・関東インカレ)が9~12日に東京・国立競技場で行われた。 4日間の熱戦で、私が最も印象に残った選手は、東洋大の石田洸介(4年)だった。第1日(9日)の男子1部1万メートルで、高校3年以来、4年ぶりの自己ベスト記録となる28分8秒29で6位に入賞した。 石田は群馬・東農大二高3年時に5000メートルで16年ぶりに日本高校記録(当時)を更新。東洋大でも1年時に出雲駅伝5区、全日本大学駅伝4区で区間賞。しかし、2年時の箱根駅伝2区で区間19位とブレーキしたことに「もう僕は駅伝を走ってはいけないと思った」というほど責任を感じ、不調に陥った。昨夏は埼玉・川越市の選手寮を離れ、福岡県内の実家に帰った。「今だから言えますが、陸上を辞めるつもりでした」と明かした。 1秒を争う世界から“一時避難”し、ゆったりと過ごす日々で、石田は徐々に活力を取り戻し、勝負の世界に戻ってきた。「結局、時間が解決してくれた。4か月、長かったけど、僕には必要な時間でした」と振り返る。「両親はすごく心配していたと思いますけど、温かく見守ってくれた。酒井監督やチームメートは温かく受け入れてくれました。支えてくれた、すべての人に恩返しをしたい」。石田は強い思いを抱いて、学生ラストシーズンに挑んでいる。 「恥ずかしながら4年目にして関東インカレは初出場です」と石田は苦笑いしたが、そのレース自体については、すがすがしい表情で語る。「ラスト勝負で競り負けるとか課題はありますが、今の力は出せました。高校時代で止まっていた時間を取り戻したい」とさらなる躍進を誓った。 昨季の学生3大駅伝すべてを欠場した石田が戦列復帰したことで、東洋大は勢いに乗っている。関東インカレでは主要な長距離種目の5000メートル、1万メートル、ハーフマラソンで2人ずつ入賞した。ハーフマラソンで2位に入った主将の梅崎蓮(4年)は「石田が1万メートルで積極的に走る姿を見て刺激を受けた。自分も負けていられない、と思いました」と充実した表情を見せた。 石田の復活は、東洋大だけではなく、実は他校の選手にも好影響を与えていた。 男子2部5000メートルでは、青学大の鶴川正也(4年)が13分36秒41で優勝した。鶴川は一昨年、昨年と2年連続で日本人トップの3位だったが、ついにケニア人留学生に競り勝ち、表彰台の真ん中に立った。「やっと自分の走りを取り戻せたと思います」と鶴川は満面の笑みを見せた。レース後、しばらく時間がたち、喜びと興奮が落ち着いた後、鶴川はしみじみとした様子で話した。 「大会初日(9日)の1万メートルのレースを寮でライブ配信で見ていました。石田君の走りには感動しました。きつそうなのに集団を引っ張って走っていた。その姿に泣きそうになりました。石田君は、僕よりも、ずっと苦しかったと思うんですよね…」 鶴川は熊本・九州学院3年時に全国高校駅伝「花の1区」(10キロ)で区間賞を獲得するなど、現在の大学4年世代では石田と並ぶ存在だった。しかし、これまで学生3大駅伝の出場は3年時の出雲駅伝6区8位だけ。青学大が2年ぶり7度目の優勝を飾った今年1月の第100回箱根駅伝でも16人の登録メンバーから外れた。石田と同様に、こここまで、大学では思い描いていたような結果を残すことはできていなかったが、4年目は活躍が期待される。 青学大の原晋監督(57)は楽しそうに言う。 「現4年生世代は、国学院大の平林清澄君、駒大の篠原倖太朗君、そして、うちの太田蒼生が3トップでしょう。でも、高校時代、その世代は石田君と鶴川が2トップでした。石田君の頑張りが鶴川に刺激になったと思います。高校時代の2トップが現3トップと同じレベルで競い合うようになれば、今季の大学駅伝界は、さらに盛り上がりますよ」 関東インカレで復活を証明した石田洸介。その存在は、やはり、大きい。今季の大学駅伝界のキーマンとなる。(箱根駅伝担当・竹内 達朗)
報知新聞社