なぜ若者も熱狂?フィリピン大統領選挙が“お祭り騒ぎ”になる理由
熱狂の理由その2―― 政治が自分ごとになる社会構造
木場紗綾: フィリピンの選挙がここまで盛り上がるもう一つの理由には、政治家が自分の支持層にのみ恩恵を与える社会構造も関わっています。政治を自分ごととして捉えざるを得ないのです。
例えば、2004年の大統領選挙ではアロヨ大統領が当選しました。当時アロヨ大統領を応援した、とある貧しい地域の住民たちは、今、違法に家を建てて住んでいる政府の土地に、このまま住んでいてよいと明記された証明書を大統領から与えられました。しかし、野党を支持した住民の家には「ここは違法居住地なので30日以内に出ていってください」と書かれた貼り紙が貼られました。その後、彼らに対しては実際に強制立ち退きが執行されたと聞いています。
さらに、大規模自然災害の時なども同じような現象が起こります。為政者が、自分の支持者にだけ支援物資を配布して、対立候補支持者が多く住む村は見捨てられるということがあるのです。本来なら、日本の社会福祉サービス(失業保険や生活保護など)のように、どんな人でも平等にサービスを受けられるべきなのですが、フィリピンでは当選した政治家の権力が大きく、それをコントロールする法律がまだまだ整備されていないので、政治家が予算や物資を自分の支援者に優先的に配分するような事態がおこります。 日本は全国的に公務員のレベルが高く、公平なシステムが運営されているため、政治家が公共サービスを私物化しようとしても、基本的にはできませんが、フィリピンは、官僚制度に重大な問題があります。例えば、ある公務員が市長から「この村に支援物資を重点的に配布せよ」と命令されたとします。本心では、そうしたくないと思っていても、市長からの懲罰人事を恐れて、公務員は「ノー」と言えません。その結果、支援物資の不公平な分配という結果になってしまうのです。 こういった環境で生活している人々は、「貧しくても自分なりに賢い有権者になろう」「政治家のことを一生懸命知ろう」という気持ちが強くなり、選挙に対する意識が非常に高くなるといえます。その結果、選挙に熱狂的なまでの関心を抱くのです。