「虎に翼」登場人物が“振り切り”すぎ? 朝ドラなのに“王道”じゃない、異色作がヒットしている「その理由」
この轟のエピソードははっきりした答えを出さず、そのままになっている。はっきりしないものもあっていいということなのだろう。 次に、寅子の兄嫁で、30代の花江(森田望智)と16、17歳の未成年との恋愛疑惑。 寅子が、戦争孤児の道男(和田庵)を猪爪家に居候させると、彼は花江に親しみを覚えていく。夫を戦争で亡くした彼女に夫の代わりになれないかと切り出し、花江の子どもたちは許容できず取っ組み合いの喧嘩がはじまった。道男もまた、自分の真意が自分でもわかっていなくて、よくよく気持ちを整理すると、家庭の愛に恵まれなかったため、猪爪家の子どもの一員になりたかっただけだった。
■“理想形”ではないヒロインだって、いていい 年上女性と少年のエピソードは、問題解決後も「こんな色男がいたらうれしいだろう」みたいな発言もあり、どこまで親子的な心情で、どこまで恋愛なのかはっきりしない描き方をあえてしているようにも見える。 血のつながらない男女の関係性には恋愛以外にも、もっといくつもの可能性があっていいということと筆者は受け止めた。 小さな息子が、みるみる道男の存在を肯定していく流れなど、どうにもうまく咀嚼できない視聴者もいるだろう。おそらく、作者はそういう反応も織り込み済みなのだろう。
そして受け止めきれない人のことも肯定している。許容できてもいいしできなくてもいい。ただし、この社会には、自分の認識をはるかに超えた人生がいくつもあるのだ、とばかりに作者はせっせとこれまでにドラマで描かれてきた規定路線を超えた人物を描こうとしている。 出身を隠して日本で暮らす外国人もいれば、同性を好きな人もいれば、男装する女性もいれば、年齢差など関係なく接する人もいていい。さらに、妻や母の役割を捨てて自立する人や、母の期待を裏切って母を苦しめた女性を愛してしまう人も。
ヒロイン寅子もまた、仕事を優先し、家事を兄嫁・花江にまかせている、極めて自由なヒロインである。 これまでのヒロインはたとえば、明るくさわやか善意成分多めで、仕事と子育てに迷い、悩みながらなんとかやりとげていくというような理想形があった。だが、そうではないヒロインだって、いていいではないかという問いかけが寅子像である。 寅子は家事や娘の世話をほぼ家族にまかせっぱなしだが、それを誰も責めないし、自身も必要以上に責めない。実際、現実世界には、仕事を優先している妻や母親だっているだろう。