「正直『飛んでくんな』と…そこまでなったのは初めてでした」オリックス・安達了一はなぜ引退を決めたのか「あのエラー」と「取り戻した誇り」
職人ゆえの試行錯誤
社会人野球の東芝から2011年のドラフト1位で入団した安達は、1年目こそ怪我で出遅れたが、2年目以降ショートのレギュラーに定着。難しいプレーも当たり前のようにさりげなくこなす堅実な守備や、試合の流れを読んで絶妙なタイミングで投手に声をかけるなど、周囲に安心感を与える存在だった。 2021年に中嶋前監督は高卒2年目だった紅林弘太郎をショートに固定し、安達をセカンドにコンバートした。シーズン中の転向にもかかわらず、安達は難なく対応しているように見えたが、実は繊細な職人ゆえの感覚のズレに苦しんでいた。 「セカンドを守りながら、ずっとしっくりはきていませんでした。一歩目をうまく切れなくて。ショートの感覚とは全然違いました。すぐにボールが来ちゃう感覚があって、捉えられないというか。左バッターが引っ張る打球と、右バッターが引っ張るショートゴロではなんか全然違うんですよ。ずっとショートを守っていたので、自分の感覚で守れなくなった部分はありました」
転機となった愛息の誕生
もともとショートへのこだわりが強く、以前は「ショートを守れなくなったら引退。他のところを守りたいとは思わない」とまで語っていた。 だが2019年に長男が誕生してから変化があった。2016年に難病の潰瘍性大腸炎を患ってから諦めていた「長くやりたい」という欲が膨らんだのだ。以前、こう語っていた。 「子供ができたので、子供に見せたいというのがあります。プロ野球選手としてやっていたということが記憶に残るように」 引退セレモニーが行われた今年9月24日の本拠地最終戦の前、5歳になった長男の陽汰(ひなた)くんが始球式を行った。愛息が振りかぶって投げたボールを、ワンバウンドで受け止めた安達は、満面の笑みで拍手を送った。 「嬉しかったですね。わかっているのかどうかわからないけど、なかなかできない経験なので、こういうところで投げたんだって、記憶に残っていてくれたらいいですね」
取り戻した名手の誇り
引退試合となったその9月24日は、ショートの守備についた。 「今日は『ショートで行きたいです』と監督に言いました。久々の感覚でした。でもやっぱり守りやすかったですね。まだ行けそうやな(笑)」 名手の誇りを取り戻し、スッキリした表情でユニフォームを脱いだ。 〈つづく→後編では難病との闘い、盟友とのエピソードを明かしています〉
(「猛牛のささやき」米虫紀子 = 文)
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