【連載】言の葉クローバー/上田剛士(AA=)の価値観・視座の指針となる『1984年』
心を揺さぶられたり、座右の銘となっている漫画、映画、小説などの1フレーズが誰しもあるはず。自身の中で名言となっている言葉をもとに、その作品について熱く語ってもらう連載コラム『言の葉クローバー』。今回は、5月23日に新作「FIGHT & PRIDE」をリリースしたAA=の上田剛士が登場。近代文学の傑作から、自身の価値観・視座の指針となる言葉について語ってくれました。
----------------------------------- 自由とは、2+2=4であると言える自由である 小説『1984年』 -----------------------------------
ジョージ・オーウェルが1949年に書いた『1984年』という小説の中に、この言葉が出てくるんですけど、そもそもこの作品の存在を知ったきっかけは、ユーリズミックスのMVなんですよ。自分が高校生の時、ちょうど1984年に映画化されて、そのテーマ曲をユーリズミックスがやってて。映画のシーンがMVに使われていたんですよね。それを何の前情報もなくMTVで観た時、映像のカッコよさにまず惹かれて。それで〈この合間に挟まれる映像は、一体何?〉と思って調べたら、どうやら『1984年』という映画だということにたどり着いて。でも当時、どの映画館でもやってなくて(註:日本公開は1985年)、それでさらに調べていく中で、原作の存在を知り、翻訳本を買ったんです。 いざ読んではみたものの、高校生だった自分には、難解なディストピア小説、ただただ怖い物語という感じでしかなくて(笑)。でもその中ですごく心に残ったのが、〈自由とは、2+2=4であると言える自由である〉という言葉だったんです。 この作品は、第三次世界大戦後の1984年、ビッグブラザーと呼ばれる存在がトップに立つ政党に統治された、思想も私生活も管理された全体主義国家が舞台になっていて。党が『2+2=5』だと言ったら5だ、という世界に生きる主人公が、そんな社会体制に疑問を抱いて、密かにつけてる日記にこの言葉を書き記すんですけど、これって自分が好きで聴いてきたパンクやロックの世界にも通じるものだなと思って。体制や権力に対して、疑問を持ち、自分にとって大事なものを守るために戦う姿勢。いわゆるパンク精神、反骨精神を音楽以外で知れたのが、『1984年』だったんです。 そこからだいぶ時間が経った頃に手にしたのが、同じくジョージ・オーウェルの作品で、自分のプロジェクト名にもなった〈ALL ANIMALS ARE EQUAL〉という言葉が出てくる『動物農場』なんです。人間が持つ欲望、そこから生まれる心理が寓話的に描かれていて、物語の最初と最後では、〈ALL ANIMALS ARE EQUAL〉という言葉の意味合いが塗り変わり、すごくアイロニックなものなってしまうんですけど、〈すべての動物は平等である〉という思想が持つ美しさ、輝かしさというのは大事にしてもいいんじゃないかなと思ったんですよね。それで、ちょうどその頃に動き始めた自分のソロプロジェクトの名前にこの言葉を掲げたんです。 自分にとって、2+2=4と言える自由を求める心であったり、すべての動物は平等であるという思想の美しさはこれからも大事にしていきたいものだし、それを守るために戦うという姿勢だったり、世の中に対する視座は、パンクロックとオーウェルから教わったものなのかなと思います。 『1984年』 著者:ジョージ・オーウェル ビッグ・ブラザー率いる党が支配する全体主義的近未来。主人公のウィンストン・スミスは真理省で歴史の改竄に関わる仕事を行う一方で、政府の完璧な屈従を強いる体制に以前より不満を抱いていた。ある時、ジュリアと恋に落ちたことを機に、彼は伝説的な裏切り者が組織したと噂される反政府地下活動に惹かれるようになるが――全体主義国家の統治における恐怖を描いたディストピアSF小説。1949年刊行。