「音楽はテクニック以前に学ぶべきことがある」レパートリーの限界を逆手に取るピアニスト、マリア・ジョアン・ピレシュ【世界文化賞】
手ではなく、身体を使って“音をつくる”
ピレシュ: 手が小さいので、身体をもっともっと使って演奏する方法を学ばなければならなかったのです。身体を使うと、音の持つ秘密をさらに発見し、音をどのように引き出すことができるのか、そして楽器にどれだけ依存しているのかが分かります。楽器自体が良くないといけないのでしょうか?おそらくそうではありません。自分の楽器である“身体”を使えば多くの異なる音色を奏でることができるはずです。 ピレシュ: 身体を使って演奏すること、これはアコースティック楽器を演奏したいと思っている人にしっかりと伝えるべきだと思います。自然な音響と身体は関連しているのです。音は振動し、あなたの身体も音を振動させるのです。知識や手のテクニックでは、本当に表現したいものを表現することはできません。想像力を実現するためには、身体が必要なのです。この身体への意識こそが、アコースティック楽器を演奏する音楽家にとって非常に重要なことなので、これを忘れてはいけません。 音楽にはテクニック以前に学ぶべきことがある ピレシュ: 小さい子供であれば、何かを“教える”ということはありません。ピアノに座って音符を弾いたり、ビートを学んだり、楽譜を読んだりすることは教えません。何も教えないこともあります。ただ、一緒に音で物語を作るのです。子供が音の振動にどれだけ興味を持っているかを知りたいのです。子供たちが音楽に興味を持つかどうか、あるいは、楽器やそれを上手く弾きこなせるテクニックに関心があるだけなのか。これらが重要なのです。 ピレシュ: しかし、これまで多くの教師や優れた音楽家と話をしてきましたが、彼らの答えはいつも同じです。「時間がない」と。人間にとって時間はますます縮小していくものなのです。私にも時間がない。例えば時計を見ると、テクニックを学ぶのに残り10分しかなければ、その10分でテクニックを学びます。つまり、テクニック以前に学ぶべきことがあり、それが身体の動き、呼吸、音、すべてがテクニックを学ぶ以前にあるのです。 ピレシュさんは社会的および教育的プロジェクトへの献身でも知られている。 1999年にはポルトガル東部に農村出身の子供たちのための合唱団の活動やワークショップの拠点として「ベルガイシュ芸術センター」を設立した。