タペストリーのカプリ買収に中止の裁定 市場は「マイケル・コース」の今後を懸念
仮処分について議論した裁判において、FTCは両社の合併により「アクセシブル・ラグジュアリー」市場の価格が最大17%上昇し、年間3億6500万ドル(約550億円)が消費者に価格転嫁される可能性があるとしていた。裁判の最中、FTCの考えに賛同していた人物は、「世帯年収が7万ドル(約1060万円)の女性がアウトレットやメイシーズに行けば、定期口座などを解約することなく、素敵なアメリカンブランドのハンドバッグが買える環境が必要だ。合併により、多くのアメリカ人消費者は不利益を被るだろう」としていた。
もちろん今回の裁定は仮処分だが、多くの弁護士は、好機は逸し、両社はいずれ合併に関する提案を取り下げるだろうと捉えている。
仮処分を踏まえ、タペストリーは「裁定にはガッカリしている。法の解釈を誤ったとしか思えない。両社は良きライバル関係で、争いながら市場を拡大し、細分化された市場の中でそれぞれが独特の存在感を放っていた。社会が二極化する中で、合併はその中間に位置する市場の維持・確立に貢献すると信じていた。今後も、その信念は変わらない」との旨の声明を発表した。
業界関係者にも、今回の仮処分について落胆の声が上がっている。ある業界人は、「それぞれが単独で行う世界戦略と、合併して行う世界戦略ではインパクトが異なる。ことブランディングを進めながらの世界的なビジネスにおいて、合併の意味は大きかったはずだ」という。
今後の焦点は「マイケル・コース」
多くの業界人は別の企業による買収に期待
多くの業界人にとって、今後の焦点は「マイケル・コース」ブランドに移る。業界人の多くは、「コーチ」復活のノウハウを「マイケル・コース」にも適用することで、近年ビジネスが低迷しているブランドの再起を期待していた。仮処分により、「コーチ」と「マイケル・コース」は再び直接的なライバル関係となる。アナリストのジェシカ・ラミレス(Jessica Ramírez)は、「マイケル・コース」には大きな改革が必要だと主張する。「店舗、製品、そして戦略の全てが時代遅れになりつつある。このままでは、『ヴェルサーチェ』や『ジミー チュウ』を擁し続けることさえ難しくなるかもしれない。まずは会社を非上場にすべきでは?」と指摘する。またオリバー・チェン=アナリストも、「ケリングあたりは、『ヴェルサーチェ』の買収に興味を示すのではないか?その一方で『マイケル・コース』と『ジミー チュウ』は投資会社が買収するなどして、非上場になる未来を予想している。一方でもしタペストリーがM&Aを考え続けるなら、ハンドバッグではなくウエアやジュエリー、そしてビューティなどの企業を検討するのではないか?」という。
またカプリは合併に際して、「コーチ」や「ケイト・スペード ニューヨーク」「マイケル マイケル・コース」とは性格が異なる「ヴェルサーチェ」を手放すことも検討していたが、こうした計画も白紙に戻ることだろう。グローバルデータのニール・サンダース(Neil Saunders)マネージング・ディレクターは、「仮処分は、カプリにとって極めて厳しいものだ。カプリのブランドポートフォリオには偏りがあり、正直別のどこかが資本を注入したり、買い取ったりが必要だろう。もちろん、その際タペストリーが提示してくれたような高値で売却される可能性は低い」と分析する。