デヴィッド・ギルモアが語る『狂気』以来の最高傑作、ピンク・フロイドの永遠に続きうる確執
「あの男」との確執
―ニック・メイスンはこの数年、自身のバンド、ニック・メイスンズ・ソーサーフル・オブ・シークレッツでライブ活動を行っています。彼らのショウはもうごらんになりましたか。 ギルモア:いや、僕自身は見ていないんだ。彼が活動している事実が素晴らしいと思うけど。具体的に何て言えばいいのか、僕にはわからない。僕たちの当時のやり方と比べて違うアプローチでやっていると思いがちだけど、彼があの活動をしていることには全面的に賛成だ。素晴らしいことだと思うし、彼も素晴らしい時間を過ごしている。それが絶対にあるべき姿だよ。 ―今度はもうひとりの男についてお尋ねしなければなりません。2010年、あなたとロジャーは一緒にチャリティ・ショウをするくらいの、そこそこの関係でした。ロンドンで行われた彼の『ザ・ウォール』のショウにもゲスト出演しました。そこからどういういきさつで、明らかに口をきいていない今の行き詰まった関係になってしまったのでしょう? ギルモア:そうだな、それはいつか話すよ。でも今話すつもりはないんだ。退屈だからね。終わったことだよ。さっきも話したけれど、彼は僕が30代の頃、僕たちのポップ・グループを離れた。今の僕はかなりの年寄りだし、もう関係ないことさ。それ以来の彼の作品も知らないしね。だからそのトピックについては何も言うことがないんだ。 ―あなたとポリーが去年あのツイートをしたとき、炎上するだろうと判っていたでしょうに(2023年2月6日、サムソンはこうツイートしている。「残念なことにロジャー・ウォーターズ、あなたは芯まで腐った反ユダヤ主義なのね。プーチン擁護者でもあり、嘘つきで、泥棒で、偽善者で、脱税者で、口パクで、ミソジニスティック(女嫌い)で、病むくらい嫉妬深くて、誇大妄想者で。あなたのナンセンスにはうんざりだわ」。ギルモアはそのツイートを引用し、「一字一句明らかに真実だ」と付け加えた)。 ギルモア:人々はバトルだと言っているけれど、僕にとっては彼が脱退してからずっと続いている一方通行的なものなんだ。その時々で激しさが違うけどね。ポリーは自分の言い分があると感じた。僕は彼女の言い分に同意したからああ言った。これまたそれだけのことさ。これ以上付け加えることもなければ、当てる光もないんだ。 ―ピンク・フロイドのカタログが売却されるのではないかという記事がたくさん出ていますね。今もその可能性はあるのでしょうか。 ギルモア:今も話し合いの途中かって? そうだ。 ―売却を希望しているのですか。 ギルモア:あれを維持することに絡んでくる意思決定や議論から解放されるのが僕の夢なんだ。もし状況が違っていたら……ちなみに経済的な観点からの興味はない。長年の泥沼から抜け出すことだけに興味があるんだ。 ―ここまで来ると、3人の「イエス」を揃えるのは何であれ試練でしょう。 ギルモア:実はそういうやり方ではやってきていないんだ。意思決定は拒否権システムで動いている。3人がイエスと言っているのに1人がノーと言っていると言えるね。 ―あなたとニックは2022年にウクライナのために「Hey, Hey, Rise Up!」を作ったときにはピンク・フロイドの名前を蘇らせました。将来、あのように単発的にピンク・フロイドの名前を復活させることは想像できますか。 ギルモア:僕たちの生きるこの世界は奇妙なもので、人生には何かしなければ、今すぐ何かしなければと感じることが不意に訪れるものだよ。その時、自分の人生を通じて得たものを、自分が信じる大義のために使った方がいい。だから絶対にあり得ないとは言わないね。 ―自伝を書くことを考えたことはありますか。 ギルモア:書いてくれと言ってくれる人たちはいるけど、今のところまだ食指が動かないんだ。もう少し歳を取ったら考えるかもしれないね。 ―最近はロック系の伝記映画があふれています。ピンク・フロイドの伝記映画で、若手俳優があなたを演じることを想像できますか。 ギルモア:実は一瞬も考えたことがないんだ。考えられないね。それについてはわからない。別に誰にも提案されたことがないしね。誰かがピンク・フロイドで1本撮りたがってくれたとしても、彼らがどうやって作るのか到底想像できない。そんな機会が訪れた瞬間に自分が何を言うかもわからない。今のところ訪れていないけどね。 ―あなたはアメリカの大統領選挙の日の夜にマディソン・スクエア・ガーデン公演を行いますね。会場の雰囲気がちょっと変な感じになると思いますか。 ギルモア:そうだな、その公演をブッキングする前に、選挙の日の夜だってわかっていたら良かったな。そうしたらオフ日にしただろうにと思う。まあでも、みなさんアメリカ人はやるべきことをやらないとね。それに選挙はあなたたちの話だから。こっちも最近選挙があったばかりなんだ。僕は大人が運営する政府という概念が好きなんだと思う。イギリスではややそっちの方向に動いたと思うから、そっちでもどうなるか様子を見るよ。 ―今回が最後のツアーになり得ると思いますか。 ギルモア:そりゃ、その可能性は明らかにあるよ。 ―実際にそうなると思います? ギルモア:ツアーが終わったら答えるよ。 ―最後に「イエス、アイ・ハブ・ゴースツ」の話をしましょう。新作のボーナス・ソングで、すべてを実にまとめてくれています。あなたは「そう、私には幽霊が憑いている 死霊もいれば生き霊もいる/彼らは月のそばで踊るんだ/ベッドのシーツのように真っ白な石臼が 私に重くのしかかる」と歌っていますね。 ギルモア:あれはポリーと一緒に書いた曲で、2020年に出版された彼女の本『A Theater for Dreamers』のストーリーに直接影響を受けて関係がある。さっき話したけど、僕たちは国内で何回かショウをやることになっていて、レナード・コーエンの曲を1、2曲やるつもりだった。と言うのも彼がストーリーの一部だったからなんだ。それで、僕たちはあの曲をそのショウでやるつもりで、それのために新たな曲を書いた。でもまだアルバムには入れていなかった。しかも僕たちふたりとも心から気に入っている。それで、エキストラ的なものとしてアルバムに入れてもいいと思ったんだ。 ―ポリーと30年以上も一緒に曲を作り続けているなんて素晴らしいことですね。あの別の男とのパートナーシップよりよほど続いているではないですか。 ギルモア:ポリーと僕はもう32年間、こういうことに一緒に取り組んでいるんだ。実は来週結婚30周年でね。 ―おめでとうございます。 ギルモア:ありがとう。そして君が的確に指摘してくれた通り、僕たちがあの別の男と過ごした時間よりもずっと長いんだ。 ―そして、彼よりも彼女といる方が、物事がはるかにいい状況なのですね。 ギルモア:まったく同感だよ。1000パーセントだ。 ーーー デヴィッド・ギルモア 『邂逅』 発売中 日本盤のみ高品質Blu-spec CD2/ボーナストラック1曲収録
ANDY GREENE