【高校野球】甲子園出場を果たせなかった超逸材 福岡大大濠・柴田獅子は最速149キロ&高校通算19本塁打「二刀流」のドラフト上位候補
【高校通算19本塁打の強打者】 その一方で、打者・柴田獅子は強烈な輝きを放った。 右投左打の柴田が悠然とバットを構えると、数字以上に大きく見える。右足を高く上げてボールを自分の間合いに呼び込み、体幹部からしならせるようにフルスイング。柔らかさと強さが共存した打撃だった。 1打席目では先制打となるライト前ヒットを放ち、2打席目には変化球を呼び込んでレフト前に運ぶ。高校通算19本塁打の強打者らしく、バットで結果を残した。 柴田の打撃が変わったのは、ごく最近のことだという。柴田は「バットの遠心力を使えるようになった」と語った。 「バットを最短距離の軌道で出そうとすると、ボールに当たった時の力が弱くなってしまいます。ボールに対して助走距離をとって、速いスイングスピードでとらえる練習していたんですけど、ベストの使い方が見つかりました」 投手のリリースポイントから捕手のミットを結ぶラインにバットの軌道を入れようと模索した結果、「全身を使えるスイングになった」という副産物も手に入れた。高いレベルでも通用する打撃の素養と言っていいだろう。 福岡大会決勝戦は2番手の平川の力投もあり、2対2の同点で終盤戦を迎えた。しかし、8回裏に西日本短大付の8番打者・山下航輝(2年)が値千金の3ラン本塁打を放って勝ち越し。9回表をエース・村上太一が締めて、西日本短大付が3年ぶり7回目の甲子園出場を決めた。 試合後、泣きじゃくる福岡大大濠の選手たちのなかにあって、柴田は涙ひとつこぼすことなく、歓喜に沸く西日本短大付の選手たちを眺めていた。 「できることは、すべてやってきたつもりです。そこに悔いはありません」 今後の進路を問われて、柴田はプロ志望届を提出する意向を示した。投打どちらでの挑戦になるかを聞かれると、柴田は「いや、まだわからないです。プロに行けたら考えます」と答えるにとどまった。 マウンドに立っている時の自分と、バッターボックスにいる時の自分。どちらの自分が好きか。そう尋ねると、柴田は言葉を探すように少し考えてからこう答えた。
「楽しいのはどちらもです。ピッチャーは大変ですけど、抑えられた時にはめちゃくちゃ達成感があります。バッターもチームに貢献できた時に、同じくらい快感がありますから」 たった一度見ただけでは、高校生の無限の可能性は測れない。投手か、打者か、それとも二刀流か。これから柴田獅子の類まれな才能がどのような形で花開くのか、まずは秋のドラフト会議がターニングポイントになりそうだ。
菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro