アメリカ港湾の労使交渉、交渉の再開見えず。最大の論点は
米国東岸港湾の労使であるILA(国際港湾労働者協会)とUSMX(米国海運連合)が賃上げに関する暫定合意に達して半月が経過したが、依然として労使交渉再開の動きは見られない。一部では政権が介入姿勢を見せたことで、円滑な基本協約更新を期待する向きもあるが、自動化など避けて通れない課題が山積している。両者の直接交渉は6月から中断しており、暫定合意により生まれた3カ月強の猶予期間で新協約を締結できるかは不透明な状況だ。 ILAとUSMXの間の基本協約(マスターコントラクト)は9月末に期限切れを迎えた。ILAは今月1日からストライキを開始したが、USMX側が歩み寄る形で、6年間で賃金62%増という条件で両者が3日、暫定合意。既存協約を2025年1月15日まで延長する形で、荷役が再開している。ただし、賃金水準と並ぶ争点だった、自動化に関しては全く議論が進んでいない。 世界的調査会社S&Pグローバル・マーケットインテリジェンス副社長で、コンテナ海運に関するカンファレンスTPMを主催するピーター・ターシュウェル氏は本紙に対して「USMXは、ターミナルの生産性、面積当たりの処理能力を向上するためには、自動化が不可欠だと考えている。米国では新たなコンテナターミナルがほとんど建設されていないため(生産性向上は)非常に重要なテーマだ」とコメントした。 世界銀行がまとめた、コンテナ港の生産性に関する指標CPPI(コンテナポートパフォーマンスインデックス)では、23年の米国港湾で最も生産性が高いと評価されたのは東岸のフィラデルフィア港だが、世界50位と決して高い順位ではない。 このほかの東岸港では、チャールストン港が60位、東岸最大のコンテナ港ニューヨーク・ニュージャージー港が99位と、辛うじて100位以内にランクイン。ボルティモア港は191位、バージニア港は306位、サバンナ港は398位と、世界的に見ても米国港湾の生産性は高くないことが数字に表れている。なお、同ランキングでは横浜港が日本港湾最高位の9位に入っている。 既存の基本協約では、全自動化機器は導入せず、半自動化機器については労働力の保護など両者が合意しない限り導入しない、と説明している。現時点でUSMXが自動化についてどういった文言を想定しているかは不明だが、取扱量拡大には自動化が不可避と考えており、新協約では何らかの変更を求めてくるとみられる。 一方、6月の交渉中断の際、ILAは中断理由としてアラバマ州で導入された自動ゲートシステムが現行協約に違反していることを挙げており、半自動化を含めた自動化機器に対して強硬姿勢を見せる。賃金水準が確定する中で、この点で折り合いがつかなければ、船社は大幅なコスト増と低い処理能力に悩まされることになりそうだ。 11月に行われる米大統領選挙の行方も、不確定要素だ。バイデン政権は労働組合寄りの姿勢を鮮明にし、議論を拒否したILAではなく、USMXに対して交渉をするよう促した。 しかし、ターシュウェル氏は「支持基盤の中心が労働組合である民主党に対して、トランプ氏は労働組合に友好的ではない。同氏が当選した場合、バイデン・ハリス政権のように労働組合に62%の賃上げを認めることでストライキを中止させる可能性は低い」と指摘。もしトランプ政権が発足すれば、暫定協約期限切れで、10月と同様のストライキが行われる可能性は高い。 マースク、ハパックロイドの欧大手2社によるジェミニ発足など、来年2月に予定されているアライアンス再編と重なれば、グローバルサプライチェーンの大規模な混乱は避けられないだろう。
日本海事新聞社