福西崇史がEURO2024を総括「個の質、組織力ともにスペインは大会No.1だった。中でも一番印象に残ったのはダニ・オルモ」
イングランドに流れが傾きかけたところもありましたが、最後は後半41分のミケル・オヤルサバルの芸術的とも言えるゴールが決勝点となりました。 アメリク・ラポルテからファビアン・ルイス、ダニ・オルモ、オヤルサバルと3本の縦パスが通ってイングランドのラインを次々と越えたことで、守備陣は後ろ向きの守備を強いられ、中に絞らざるを得なくなり、空いたサイドへマルク・ククレジャが見事なタイミングでオーバーラップ。 オヤルサバルがククレジャに展開し、そのボールをワンタッチでピンポイントのクロスを入れ、オヤルサバルがダイレクトに押し込む。縦パスによって最終ラインを崩し、サイドからDFとGKの間に鋭いクロスを入れて合わせるという理想的で、これも教科書に載せたいパーフェクトなゴールでした。 スペインはグループリーグでイタリア、クロアチア、アルバニアと厳しいグループに入りながら3戦全勝で突破。ノックアウトステージでもジョージアのあとは、ドイツ、フランス、イングランドと優勝候補を次々と倒し、全7戦7勝と完全優勝と言ってもいい大会だったと思います。個の質、組織力ともに大会No.1チームでした。 個々の選手を見てもニコ・ウィリアムズ、ヤマルという両翼は今大会を象徴する若いタレントで、準決勝で決めたヤマルの大会最年少ゴールは信じられないほど美しかったですね。また、ククレジャとカルバハルは技術と経験に裏打ちされたプレーで攻守に質の高いサイドバックでした。 とくに良かったと思うのはロドリ、ファビアン・ルイス、ダニ・オルモの中盤中央の3人。大会MVPのロドリは相変わらずアンカーとして攻守ともに素晴らしく、ファビアン・ルイスもボランチの位置でロドリを助けつつ、前に出ても決定的な仕事をして攻撃に厚みを加えて、今大会での影響力は非常に大きかったと思います。 個人的に一番印象に残ったのはダニ・オルモでした。代表やクラブで十分にキャリアのある選手だとわかった上で、驚きのパフォーマンスでした。ペドリが怪我で離脱してからダニ・オルモのライン間で受けたり、裏へ抜け出したりと絶妙ないやらしい働きが攻撃に変化を加え、なおかつチームのためのプレーも随所に見られて改めていい選手だなと思わされました。 決勝の2チーム以外にもイマイチ調子が上がらなかったフランスでしたが、タレントの数は今大会随一でこれからが楽しみなチーム。開催国のドイツもフロリアン・ビルツやジャマル・ムシアラなど、これからを担うタレントがいるなかで、やはり目を引いたのは今大会で引退したトニ・クロースでした。 ゲームをコントロールする力、一発で局面を変えるキック精度は唯一無二で、守備においても重要なところで潰しに行ける。改めて引退がもったいないと誰しもが思うパフォーマンスだったと思います。 ほかにもクロアチアのルカ・モドリッチやポルトガルのクリスティアーノ・ロナウドなど、今大会が代表では最後になりそうな選手たちが多く、そういった意味でも見応えがあって感慨深い大会でもあったと思います。次はイギリスとアイルランドで開催されるようですが、どんな大会になるのか今から楽しみです。 構成/篠 幸彦 撮影/鈴木大喜