アメリカ大統領選挙、自動車メーカーへの影響は?◆EV・関税、待ち構える難路―専門家解説
◇気になるメキシコ供給網の行方
―関税はどうでしょうか。 中国に対しては、トランプ氏も現バイデン政権も、明確に関税で締め出すという方向感があるが、日本がそれに巻き込まれるという話は、現段階では出ていない。 対中国では、現政権も制裁関税として、EVは100%への大幅引き上げを決めた。ハリス氏もバイデン政権の方針を踏襲し、中国に特定して攻めるのではないか。 トランプ氏の就任で、米国市場への輸入車に対する関税が一律に強化された場合、日本のメーカーにも一定の影響があるだろう。ただ、日本からは輸出をせずに現地生産が主体のメーカーもあり、影響はあっても大きな打撃にはならない可能性がある。輸入関税は、半分ぐらいは価格に転嫁できる。米国の消費者が高い車を買わされることになるのではないか。 むしろ、メキシコを含めた北米自由貿易協定(NAFTA)の後継となる貿易協定「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」がどうなるかのほうが、重大だ。2026年に同協定の改定期が来る。これをどうするか。 ―トランプ氏は、中国がメキシコの安価な労働力を利用し完成車や部品を造っていることを問題視しているようです。 メキシコ国境の話は、今のところ対中国のみだと認識している。米国・メキシコ・カナダ協定の改定で、メキシコ(の競争力)を弱体化させるような状況に持っていくのではないかと思うが、アメリカの自動車メーカーは困らないような抜け道を沢山準備するのではないか。 旧NAFTAを廃止して、今の協定の道筋を作ったのはトランプ前大統領。アメリカの労働者を守るためにメキシコと戦うということは、公約集「アジェンダ47」にも書いてある。ハリス氏よりもはるかにメキシコに対して厳しい対策をとるんだろうと思う。 ―メキシコには、日本メーカーの完成車工場や部品工場もあります。 メキシコで部品を造ってアメリカに輸出するというサプライチェーン(部品供給網)ができているので、協定の改定内容次第では、完成車だけでなく部品も含め、大きなサプライチェーンの再調整が必要になるかもしれない。販売価格に転嫁できる関税アップよりも、協定改定に伴う「メキシコたたき」のほうが怖い。 非常に大きなボディーブローとなる可能性があるのは、メキシコに大きな工場がある日産自動車と、メキシコ工場の部品への依存度が高いマツダだろう。トヨタ自動車は、メキシコの工場への依存度は低い。ホンダは、メキシコに比較的大きな工場があるが、屋台骨が揺らぐような影響ではないと思う。