アメリカ大統領選挙、自動車メーカーへの影響は?◆EV・関税、待ち構える難路―専門家解説
11月5日のアメリカ大統領選挙まで残り1カ月を切った。共和党のトランプ前大統領と民主党のハリス副大統領のデッドヒートが繰り広げられている。トランプ氏が大統領に就任した場合、米国に現地進出しているトヨタ自動車やホンダなど日本の自動車メーカーにはどのような影響が及ぶのだろうか。ハリス氏の場合は?日米の自動車産業に詳しいナカニシ自動車産業リサーチの中西孝樹代表アナリストに聞いた。(時事ドットコム取材班・編集委員 豊田百合枝) 【写真】中国の輸出用EV ◇自動車産業、大きな基礎票に ―トランプ、ハリス両陣営とも自動車や鉄鋼などの自国産業保護を訴えています。 やはり、自動車産業は大きな基礎票のひとつとして、両陣営とも取り込みに注力している。自国の経済を守る、中間層を守るといったメッセージとして、自動車産業が取り扱われているなという印象だ。双方とも、自動車産業の味方だというメッセージが非常に強く出ている。ただ、選挙は選挙。選挙後の自動車関連政策がどうなるかは、また別だろう。 ◇「もしトラ」の場合=混乱期に ―トランプ氏が勝利した場合、どうなるでしょうか。 まずは、環境政策の転換ということで、電気自動車(EV)への減税などを盛り込んだインフレ抑制法(IRA)を廃止し、EVへの補助金を撤廃するだろう。また、化石燃料への減税策を復活し「掘って掘って掘りまくる」と発言している。地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」からは脱退するとみられている。 バイデン政権が進めてきた環境面での世界的なリーダシップやエネルギー安全保障の流れがだいぶ方向修正されるので、市場にとってはかなり大きな混乱要素になると思う。 ―トランプ氏はEV促進策を「就任初日に終わらせる」と発言しています。 現状のEVの普及停滞を打ち破るような要素は、今のところないだろう。 ただ、日本では「トランプ氏がEVを認めない」との行き過ぎた誤解もあるようだが、それは違う。全員がEVに乗らなくてもいいが、EVはいい製品だとは言っている。補助金なしにフェアに戦って強いメーカーが残っていくのは構わないというスタンスだろう。 ―必ずしもEVを否定してはいないと。 そうだ。トランプ氏のEV政策で一番読めないのは、中国のEVメーカーがアメリカで現地生産することを認めるのかどうかということ。本気度は不明ながら、中国製のEVは造ってもいいんだという趣旨の発言もしている。中国メーカーがアメリカに来て、アメリカの労働者や材料を使ってEVを造る分については容認する可能性がある。 ―雇用が増えるといった実利があれば。 トランプ氏は(ビジネス上の取引のように損得を計算する)「ディール思考」とも言われているので、アメリカ人が雇用され、高い給料をもらえるなら、中国企業でも日本企業でも関係ないというような考えがあるかもしれない。 トランプ氏の行動は予測不能だ。中国からの輸入車といった外からもたらされる米国への脅威は徹底して排除すると思うが、現在、完全にデカップリング(分断)している中国との関係を、一部カップリングさせるサプライズの可能性もあると思う。