マー君獲得 ヤンキーススカウトの舞台裏
24勝無敗。楽天のエース、田中将大投手がプロ野球史に燦然と輝く無敗神話を作ったその裏でヤンキースのスカウト達には、知られざる葛藤があった。マー君が投げ、無敗神話を伸ばしていた頃だった。ニューヨーク・ヤンキースの日本在住プロスカウトの紀田彰一氏の元にニューヨークのスカウト本部から連絡が入った。 ■田中の負けた試合が見たい 「田中将大の負けた試合の映像とデータを用意できるか?」 エージェントは、抱える選手を売り込むためにプロモーションDVDを製作する。そのDVDは、その選手のいい場面だけを集めたもの。投手ならば、三振のシーン、ピンチを切り抜けた場面、見事なフィールディングなどだ。ヤンキースは、今季のマー君の多くの試合をマークしていたが、負けないのだから、その映像とデータは、まるでプロモーションビデオを見ているようなものだった。 ヤンキースは過去に苦いトラウマがあった。ポスティングで2006年オフに獲得した阪神の井川慶の失敗である。当時のレートで、ポスティングに約30億円、年俸で5年約23億円で契約したが、井川は、メジャーの様々な環境に適応できず、また先発というポジションに本人がこだわったため、2年でわずか2勝という結果に終わってしまった。マー君の獲得のためには、井川の時とは、比べ物にならないくらいの巨額な投資が必要だと予想されていた。いくら資金力豊富なヤンキースと言えども慎重だった。過去に遡ってマー君の打たれた映像を取り寄せて、リスクを詳しく検討していたのである。 ■井川の”トラウマ” 複数のスカウトが日本へ ヤンキースでは、“クロスチェック”という複数のスカウトが直接、視察するシステムがとられている。昨シーズンは、幹部も含めて交代で、複数のスカウトが、ニューヨークから日本へ飛んできた。これも異例の事態だった。 「トータルでバランスが取れている」 「ローテーションに入ってくる力を持っている」 スカウトの評価は総じて高かった。球場の球速表示と、実際のスピードには、誤差があるため、どの球団のスカウトも常にスピードガンを球場に持参している。シーズン半ばのゲーム、走者を背負った勝負どころでマー君のストレートは、98マイル(157キロ)を記録した。その球が、そのイニングでは3、4球続いた。ニューヨークから来たスカウトも、それには色めきだったという。