インドの休日に出会った「チャイとピンクのバス」
平日の早朝、ときどき海に行きます。 街の東側がベンガル湾に面していて、砂浜の海岸線が続くチェンナイ。チェンナイの南、うちから30分ほどのコバラムという漁師町にはサーフ・ポイントがあり、ほぼ毎週、土日の午前中をそこで過ごしています。 最近、やっと、サーフィンらしいサーフィンができるようになってきた私は、波に乗るのが楽しくて仕方がなく、週末以外でも、余力のある朝は早起きして海に向かうようになりました。 朝6時過ぎ、水平線の向こうで少しずつ昇る太陽は、深緑の水面にまっすぐで静かな橙色の道を作り、その柔らかな光がゆらゆら揺れる中でパドリングすると、幸せな気持ちでいっぱいになります。早朝の海は本当に清々しいです。 サーフィンの後、仕事がある夫は直接会社に向かいます。その日は子どもたちの通学でファミリカーも出払っていたため、私はバスで帰ることにしていました。 海から上がってさっぱりして、バス停に向かって歩いていると、友人がバイクでやってきて「乗ってけ」と。彼はコバラムでサーフスクールを営んでいて、サーフボードを預かってもらったり、シャワーなど施設を使わせてもらったり、もちろんサーフィンも教えてもらったり、いろいろお世話になっている地元の人です。 何度も通っている道ですが、バイクの後部座席にまたがり、顔に風を受けると、景色はちょっと違って見えます。その上「チャイは好き?とっておきをご馳走するわ」と、ローカルならではの雰囲気の、お気に入りのチャイ屋に立ち寄ってくれました。オレンジジュース1杯で2時間以上海に入っていた私に、とっておきのチャイはカラダに心に沁みました。おまけにビスケットも。チャイはおかわりしました。これ以上にない朝食です。 バス停でバイクを降りると、私が乗る路線でピンクのバスを見つけたので乗り込みました。「背面がローズカラーのバスは女性は無料なんだよ」と、チェンナイに来てすぐの頃、ドライバーに教えてもらったっきり、実際に乗るのは初めて。車掌さんに声をかけて「Women Free」と記してあるチケットを受け取りました。なんだかついている気分です。 コバラムはチェンナイ市内に向かう路線の出発地点なので、常にたくさんのバスが集まっています。ECR (East Coast Road)沿いを走る109番に乗ると、近所のバス停まで31ルピー(約60円)。車より時間はかかるものの、車高が高いので景色も違うし、冷房がなく常に窓が空いていて、風が気持ちよく快適です。座席を確保できる、という条件付きですが。 チェンナイに住むエキスパットの多くは専用のドライバー付き。「どこかに行くには車」が普通です。なので「ときどき路線バスに乗る」というと驚かれたりします。通勤通学の時間帯は混み合い、車内はぎゅうぎゅう、ドアにつかまり片足で乗っている学生などを見かけたりするからでしょう。確かに先進国のバスと比べれば、ありえない仕様もありますが、利用してみると、笑って済ませられることがほとんどです。 早朝サーフィンを楽しんで、美味しいチャイを飲んで、ピンクのバスに乗って、家にたどり着いたときの満足感は特別でした。また同じコースで海に行こうと思っています。
ヤスダハルコ