感染者たたき、感染者の謝罪は自分たちの首を絞める 岩田教授に聞く「誰でも感染する」怖さ
ウイルスはゼロにはならない
──ウイルスに対して、どの程度恐れればいいのでしょうか。 大事なことは、ウイルスはゼロにはならないということです。ゼロリスクを求めるなら、一生家から出ないことです。ウイルスのリスクというのはそういうものです。 ウイルス感染から2週間たって、症状もおさまって回復しました、陰性になりました、でも、まだウイルスが出ている可能性があるから、隔離しましょう、と。そうやってゼロリスクを求めると、延々と陰性かどうかを確認し続けることになる。それはおかしいでしょう。 ──いま緊急事態宣言の最中にあって、この1カ月間でどの程度感染者を抑え込めるのかにかかっています。 人々が距離を保ち続けるのがこの施策の肝です。ただ、日本の緊急事態宣言と海外のロックダウンを比較して、どっちが効果的かと聞かれることがあるのですが、これはやってみないとわかりません。施策の中身とそれを市民がどれくらい順守し、遂行できるかは同義ではないからです。人々が距離をとって感染を防ぎ、社会的距離を順守できれば感染爆発は防止できるでしょう。 中世の時代は街を焼き尽くしたり、感染者を火あぶりにしたりということをしたのかもしれませんが、そんな形で感染は克服できるわけではありません。また、感染した人や集団を差別したり、迫害したりすることで解決できるわけではありません。 クルーズ船で管理が失敗したのは、ウイルスが目に見えない前提のもと、どこにウイルスがあって、どこにないのかを明確にするゾーニングという対応をしていなかったことです。 ウイルスは目に見えないんです。誰がもっているかもわからないんです。マスクをしていても、近い距離での濃厚接触なら感染します。マスクをしていれば安心ということでもないんです。だから、誰からも感染しないように、距離をとるソーシャルディスタンスが必要なんです。そういう正しい理解をできて、初めて「正しく怖がる」ことができる。そういう概念の理解をできるか、そして実行できるかに、感染拡大防止はかかっていると思います。
森健(もり・けん)
ジャーナリスト。1968年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、総合誌の専属記者などを経て独立。『「つなみ」の子どもたち』で2012年に第43回大宅壮一ノンフィクション賞受賞、『小倉昌男 祈りと経営』で2015年に第22回小学館ノンフィクション大賞、2017年に第48回大宅壮一ノンフィクション賞、ビジネス書大賞2017審査員特別賞受賞。