県都の路線バス網がピンチ…委託路線は民間に差し戻され、貸し切り事業撤退には市議会が異例の否決…窮地に立つ鹿児島市交通局
鹿児島市議会は20日、最終本会議を開き、交通局の貸し切りバス事業廃止に関する議案を否決した。収益性が見込めるなどとして、議会側から「廃止は時期尚早。休止を」との意見が出ていた。市長提出議案の否決は1975(昭和50)年以来49年ぶり。市はこれを受けて、事業を存続させ、運用の在り方など今後検討する。 【関連】市営バス運転手不足が深刻化…同じく人手不足の民間委託先が一部路線を差し戻し 安定運行の人数確保へ「貸し切り事業」から撤退 鹿児島市
議案は、運転手不足を理由に2025年3月末で同事業を廃止するための条例廃止。本会議では仮屋秀一(自民)、三反園輝男(市民連合)の2議員が反対討論し、採決の結果、賛成9(公明、にじとみどり、無所属1)、反対35(自民、立憲社民、市民連合、共産、無所属5)で否決された。同議案は12月13日の常任委員会でも否決となっていた。 本会議後、下鶴隆央市長は取材に「路線バスを守るため今ここで手を打つ必要があると考えた」と改めて提案理由を説明。否決については「議会が審議の上、(事業の存続が)市民のためになると判断した。市議会が権能を発揮した結果だ」と述べた。 ◇ 鹿児島市議会は12月定例会で、交通局の貸し切りバス事業廃止に関する議案を否決した。運転手不足と路線バス維持について、緊急に解決すべき課題と捉える交通局に対し、反対した議員は収益性や将来展望を論じた。質疑、答弁の論点はかみ合わず、危機感の温度差が浮き彫りとなった。
最終本会議で反対討論をした議員は、処遇改善で運転手確保の可能性があることや、今後の収益性が期待される点などを強調した。バスなどの運転手不足は全国で顕著で、官民が試行錯誤を重ねている。しかし特効薬はなく、多くの事業者が窮地に立たされている現状に照らせば、市議会は極めて楽観的だったと言わざるを得ない。 廃止ではなく一時休止し、状況を見極めることを勧める意見もあった。ただ、いつ、どの指標で評価し、再開の可否を判断するかといった具体にはほとんど踏み込まなかった。問題の先送りではないか。 たとえ貸し切り事業を休止し、その後に人員の余裕ができたとしても、優先すべきなのはすでに縮小している官民路線バス網の“回復”だ。こうした視点での議論もほしかった。 交通局側の説明も説得力を欠いた。存続させた場合の路線バス減便数を示せず、ダイヤ改正に向け時間的猶予がないという内向きの理由を挙げるばかり。議員からは経営努力を求める声も多数上がった。運転手確保を急ぐのはもちろん、2012年度以来続けてきた民間委託の功罪も、いま一度検証すべきだ。
同市議会では49年ぶりに市長提出議案の否決。しかし所管する産業観光企業委員会の審議は3時間ほど。言論の府として、たびたび夜通しで意見を戦わせ、熟議を尽くす往時のような熱気は感じられなかった。 「49年ぶりとはいっても『軽い』否決だった」とベテラン市議。「拙速」との批判は、事業廃止を提案した市ばかりでなく、市議会が下した結論にも向けられている。
南日本新聞 | 鹿児島