仕事はデキるのになぜか部下全員から嫌われている…今年、相談件数が一気に増えた「新タイプのヤバい上司」
■専門家がアドバイスした部下側の対応法 部下の方々にはSさんへの対応法について次のようなことを伝えました。 ---------- ・SさんのASD特性について理解をしましょう。 → これによりSさんが部下を傷つけようとしたり、見下して発言しているわけではないことが分かり、部下自身のストレスマネジメントにつながります。 ・Sさんに報告などをするときは、結論から述べるようにしましょう。 → 背景や理由などから説明しているうちに、混乱させたり、苛立たせたりする場合があります。 ・どこまでやれば仕事は完成したといえるのか、事前にすり合わせをしておきましょう。 → 求められている部分や時間などについて、お互いの認識のギャップが大きい場合が少なくないため、それを埋める必要があります。 ・Sさんの言い方に傷ついた場合は、「私は、Sさんの○○という言葉に傷つきました」と伝えましょう。 → Sさんは悪気なく言っている場合がほとんどですが、I(アイ)メッセージなどの技法を使って相手に自分の気持ちを伝えることは、自分の心を守るうえで重要です(自分を主語にして気持ちを伝える技法をIメッセージといいます)。 ・Sさんとのコミュニケーションが比較的とりやすいポジションにいる中堅社員に、やり取りの間に入ってもらったり、一緒に話してもらったりします。 → Sさんとポジションが近い人に介入してもらえば、緊張が薄れる、証人ができるなどのメリットがあります。 ---------- 以上のようなことをSさんの部下たちに伝えたところ、Sさんに悪気はないことも分かり、コミュニケーションがとりやすくなったということでした。
■最終的には「部下を持たなくていい仕事」への異動で解決 しかし、それでもSさんとしては、今のポジションにストレスを感じていることに変わりはありません。彼の依頼もあって人事担当者に状況を伝えたところ、人事とSさんとの面談が設定されることになりました。 そして、Sさんは次の異動のタイミングで、管理職というポジションではあるものの、実質上は部下がつかない部門でデータサイエンティストとして、新しいキャリアをスタートさせることになりました。異動後は、本人もストレスフリーで働き、実績も出しているということでした。 本件は、人事が介入したこと、規模が大きい企業であったことなどが幸いして、上手くいった事例です。しかし、そのような条件を満たしていない場合であっても、人事や専門家が公平な立場で介入して、各々の事情を把握し、部下に対応法をレクチャーしたり、両者の間に社員を介入させたりするステップが重要になります。 ---------- 舟木 彩乃(ふなき・あやの) 公認心理師、メンタルシンクタンク(筑波大学発ベンチャー)副社長 一般企業の人事部で働きながらカウンセラーに転身、その後、病院(精神科・心療内科)などの勤務と並行して筑波大学大学院に入学し、2020年に博士課程を修了。博士論文の研究テーマは「国会議員秘書のストレスに関する研究」。これまで一般企業や中央官庁、自治体などのメンタルヘルス対策や研修に携わり、カウンセラーとしての相談人数は、のべ約1万人以上。ストレスフルな職業とされる議員秘書のストレスに関する研究で知った「首尾一貫感覚(別名:ストレス対処力)」に有用性を感じ、カウンセリングにとり入れている。Yahoo!ニュース エキスパート オーサ-として「職場の心理学」をテーマにした記事、コメントを発信中。著書に『「首尾一貫感覚」で心を強くする』(小学館)、『過酷な環境でもなお「強い心」を保てた人たちに学ぶ「首尾一貫感覚」で逆境に強い自分をつくる方法 』(河出書房新社)がある。 ----------
公認心理師、メンタルシンクタンク(筑波大学発ベンチャー)副社長 舟木 彩乃