「半信半疑」を「確信」に変えた選手権予選の確かな結果。流経大柏は懸案だった「次の1点」を奪い切って昌平相手に3-0の快勝劇!
[11.23 プレミアリーグEAST第20節 昌平高 0-3 流通経済大柏高 昌平高G] 【写真】ジダンとフィーゴに“削られる”日本人に再脚光「すげえ構図」「2人がかりで止めようとしてる」 シーズンを通してずっと好調でい続けられることなんて、そうあることではない。厳しい時間を強いられた時こそ、そこで何ができるか。苦しい時間を味わった時こそ、そこから何を得られるか。日本一の頂を目指すのであれば、その過程を乗り越えずに、最高の景色にはきっとたどり着けない。 「苦しい時期があって、“半信半疑”になっていた部分が、ここに来て確信に変わったということじゃないですか。でも、その苦しんできた時間も、彼らのこの先の成長にとっては凄く良いことだったと思います。これでみんな自信を持って、1個上のカテゴリーに飛び込んでいけるんじゃないかなって」(流通経済大柏高・榎本雅大監督) 再び自信を取り戻した野武士集団が、逞しく引き寄せた快勝劇。23日、高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ 2024 EAST第20節で、4位の昌平高(埼玉)と6位の流通経済大柏高(千葉)が対峙した一戦は、前半で2点を先行した流経大柏が、後半にも1点を追加して3-0で勝利。貴重な勝点3を積み上げている。 ゲームは序盤から流経大柏の強度が際立つ。「前からプレスを掛けて、取ってショートカウンターという、自分たちのやりたいサッカーが今日はハマっていましたね」と口にした最前線に構えるFW粕谷悠(3年)のプレスをスイッチに、2列目に構えるMF和田哲平(3年)、MF柚木創(3年)、MF亀田歩夢(3年)も果敢にビルドアップへ寄せ切り、相手の攻撃にリズムを作らせない。 すると、試合が動いたのは18分。右サイドからDF堀川由幹(3年)が丁寧なクロスを上げると、「相手のセンターバックが結構ボールに食い付いていたので、『堀川ならそこに蹴れるだろう』と思って」うまく背後に潜った粕谷が冷静にフィニッシュ。ボールはゴールネットを確実に揺らす。「結構落ち着いて、キーパーもちゃんと見えましたね」というストライカーの先制弾。流経大柏が1点のリードを握る。 畳みかけるアウェイチーム。3分後の21分は左サイドで獲得したCK。キッカーの柚木が正確に蹴り込んだキックを、キャプテンマークを巻くDF奈須琉世(3年)が頭で合わせたボールは、これまたゴールネットへ吸い込まれる。「奈須とは日ごろからセットプレーの練習をしている時に話し合っているので」と柚木が話せば、「昨日考えた形がドンピシャで決まりました」と笑ったのは奈須。2-0。流経大柏が点差を広げる。 「選手権に負けて2週間空いてしまいましたけど、改めて『プレミアで優勝しよう』という話はみんなでしていました」とキャプテンのMF大谷湊斗(3年)が言及した通り、昌平は高校選手権埼玉県予選の準々決勝で敗れたため、残されたコンペティションはもうこのプレミアのみ。首位とは3ポイント差という状況を受けて、必勝態勢で臨んだ一戦だったが、なかなかアタックにテンポが生まれず、攻撃の手数も出てこない。 25分にはようやく昌平に決定機。大谷が右から蹴ったFKの流れから、MF長璃喜(2年)は難しいボレーを枠内へ収めるも、ここはカバーに入った流経大柏MF稲田斗毅(3年)がスーパークリアで回避。流経大柏が2点のアドバンテージを保ったまま、最初の45分間は終了した。 後半に入っても、基本構図は昌平がボールを持って、流経大柏が構えたところからハントに打って出るというもの。2点を奪ってからの流経大柏は少なくないチャンスを作っていたものの、なかなか次のゴールを手繰り寄せられず、「『次の1点をどっちが獲るかが重要だ』ということは、ハーフタイムに全体で話をしていました」と柚木も語ったように、もちろん3点目を目指す中で、攻守どちらにもバランスを掛けにくい展開を迎えていた。 そんな状況を打破したのは、帰ってきたナンバー10。後半19分。ショートカウンターから中央を運んだMF飯浜空風(3年)が左へスルーパスを通すと、「ああいう受け方をして、コントロールして、キーパーと1対1という練習もしてきました」という柚木はGKとの1対1も冷静に制し、着実にシュートをゴールへ流し込む。ケガの影響から選手権予選はスーパーサブの役割を担ってきたエースは、これがプレミアでは実に第13節以来となるシーズン5点目。3-0。“次の1点”も流経大柏に記録される。 「もっとワンタッチやツータッチで剥がせたら良かったですけど、2タッチ以上してしまうとやっぱり相手も身体が強いですし、プレスも速いので、スムーズにボールが動かず、攻撃もうまく行っていなかったなと思います」(大谷)。小さくないビハインドを負った昌平は、DF上原悠都(3年)と長で縦関係を組む左サイドの仕掛けをポイントに、攻撃の芽までは創出しながら、それを明確にチャンスへ変えるまでのパワーが出てこない。 流経大柏は右から堀川、DF幸田爽良(3年)、奈須、DF宮里晄太朗(3年)で組んだ最終ラインも高い集中力を保ち続け、守護神のGK加藤慶太(3年)も的確な指示を送ってチームを引き締める。「選手権に勝って、それでホッとしちゃうのがウチっぽいんだけど、今日はそれがなかったから本当に良かったですね」(榎本監督)。ファイナルスコアは3-0。盤石のゲーム運びで白星を奪った流経大柏が、再び優勝争いに食い込む権利を力強く手繰り寄せた。 「結構メンタルの浮き沈みのあるチームだったけど、選手権予選に勝ったことで、そこも1個超えましたね。みんな自信を持ってプレーしていますし、今日も良かったですよ」。流経大柏を率いる榎本監督は、試合後にそう言って笑顔を浮かべた。 シーズン前半戦の彼らにとって間違いなくターニングポイントになったのは、インターハイ千葉県予選決勝で市立船橋高に敗れたこと。そこまでのプレミアでは7戦無敗だったにもかかわらず、対照的にプレミア未勝利だった“永遠のライバル”に屈して全国出場を逃したことは、「彼らの自信がへし折られた」(榎本監督)大きなトピックスだった。 以降のチームも経験値と引き換えに、小さくない“代償”を払っている。プレミアでは第11節から悪夢の3連敗。第17節の柏レイソルU-18戦では、3点をリードしていた終盤に3失点を献上して追い付かれ、勝点2を失った。続く18節の市立船橋戦では、開始6分に負ったビハインドを跳ね返せず、0-1で惜敗。その次のゲームでは首位の横浜FCユースを撃破したものの、決して絶対的な手応えを携えて選手権予選を迎えていたわけではない。 だが、シビアな戦いを潜り抜けて千葉制覇を成し遂げたチームは、ようやく結果に裏打ちされた自信を纏いつつあるようだ。「レイソル戦のように3点獲ってから追い付かれる試合も経験しているので、今日も『2点差は危ないぞ』『次の1点が昌平に入ったら、昌平のゲームになるぞ』ということも話しましたし、そこでチーム全員で『3点目を獲りに行こう』という意識を持てていたと思います」(奈須) 指揮官もチームの変化を敏感に察知している。「今までは奈須とか(佐藤)夢真がずっと声を出してやっていたのが、今はみんなで声を掛けるようになってきているんだけど、結局それはこっちから押し付けたわけではなくて、あくまで彼らの気付きなんですよ。そういう部分ではもうこちらから言うこともあまりなくて、今日のハーフタイムもほとんど指示はなかったです。『次の1点だぞ』ぐらいで(笑)」。冬の全国制覇という明確な目標もその先に見据え、流経大柏の選手たちは着実にチームとしての輪も広げてきている。 粕谷は今のチームの感触と手応えを、力強く口にする。「今までは奈須ばかりに頼っていたところもあったんですけど、それではチームも成長しないですし、自分たちが目指している日本一のためには、みんなが勝ちに貪欲にならないといけないので、うまく行かない時でもそれぞれ改善しようという声掛けができてきている今は、チームも成長できていると思います」。 もともと今年のチームのポテンシャルは高い。「彼らが目指しているものを達成するためには、もう1つ2つ階段を上らないとキツいと思いますけど、そういう意識は持ってくれていますよ」(榎本監督)。もう1つ2つの階段を上るための準備は整った。あとはみんなでそれを駆け上がって、最高の景色を目にするだけ。この冬の高校サッカー界は、流経大柏が面白い。 (取材・文 土屋雅史)