「司葉子」や「香港のトップ女優」ともロマンスが噂され…永遠の二枚目「宝田明」さんが演技力の凄さに感嘆した「一番の女優」とは
「もったいなくて教えてあげないわ」
セリフのないシーンで、僕にはどこが違うのか全くわからない。心優しき成瀬さんは、良ければ「いいね」と言うが、違うときには何も言ってくれない。 次の日になっても、やっぱり成瀬さんは「違う」と言う。もう100回くらいはテストしている。その間、高峰さんは何も言わず黙って演技を繰り返す。それで僕はとうとう、「高峰さん、すみませんが、どう違うか教えていただけませんか」とお願いしたわけです。ところが、高峰さんの返事は「わかっているけど、もったいなくて教えてあげないわ」です。 僕はその言葉にカーッときて、明日辞めてやるとムカムカしていた。それで監督に、一度フィルム回してもらえませんかとお願いした。ふと気づくと「カット」となって、成瀬さんから「宝田君、それでいいんだよ。それだよ」と言われたのです。今でも、どこがよかったのかわからない。 この作品の私の役は、その年、批評家から一番褒められました。後年、あの時教わっていたら、今の自分はなかったと思いました。高峰さんは、自分で這い上がってこなきゃダメだよ、と激励のつもりで言ったのでしょう。 後輩を突き放す女優に、セリフもない20秒のシーンを撮るのに1日半も粘る監督。今の映画界では考えられないことです。これまで数々の女優さんと共演してきましたが、高峰さんが一番の女優だと思いました。 *** スターの座に甘えることなく、作品ごとに演技者としての鍛錬を続けていた宝田さん。第1回【美空ひばりから「お兄ちゃん、うちに遊びに来て」 昭和のスタア「宝田明さん」が生前に語った華麗なる交遊録…江利チエミが恋に落ちた高倉健の“仮病”】では、友人だった美空ひばりと江利チエミについて、その素顔を語っている。 デイリー新潮編集部
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