「別れない男/女」には悪口大盛り上がり? 鈴木涼美が離婚危機の30代女性に勧める「愛しいろくでなし探しの旅」
作家・鈴木涼美さんの連載「涼美ネエサンの(特に役に立たない)オンナのお悩み道場」。本日お越しいただいた、悩めるオンナは……。 【写真】Vネックでにっこり 鈴木さんの“教師姿” Q. 【vol.31】離婚を迫る夫のことが今も大好きなワタシ(30代女性/ハンドルネーム「あや」) 旦那さんと離婚したくないけど、離婚を迫られています。彼とのいい思い出ばかりを思い出しては泣いて過ごしています。もし、仮に娘がいたとして、娘に勧められないような男なら辞めたほうがいいという話を聞いたときには、まさに旦那さんのことだと思いました。絶対に誰にもお勧めしたくありません。でも、私は彼のことが今も大好きで、離婚することができません。どうしたらいいのでしょうか? A. お勧めできないけど魅力的な男はきっとたくさんいる たとえば友人の恋人が何の脈絡もなく急に別れたいと言い出して、それによって友人がひどく傷ついているのを見たら、そして友人にはこれといった落ち度もなく、単に好きな人ができたとかそんな理由だったとしたら、その恋人に対してなんて自分勝手な人なんだ、と憤りを感じるような気はします。 自分に置き換えても、この先も長い未来を想像していたにも関わらず、相手の気持ちが変わってしまって別れを切り出されるのは辛いし、なんとかして相手の気持ちを取り戻し、関係をやり直したいと思うものですよね。身勝手な恋人の悪口を全員で言いながら、友人たちと朝までカラオケなんかをするかもしれません。 では反対に、友人のほうは気持ちが離れて新しい生活を始めたがっているにも関わらず、恋人がどうしても別れてくれず、そのせいで友人がひどく不自由をしているとしたらどうでしょうか。それもまた非難轟轟(ごうごう)、なんて自分勝手でひどい恋人だというように悪口大会が始まる気がします。
「相手の気持ちが離れているのに粘っても余計嫌われるだけなのに意味がわからない」「自分のことを好きではない相手と別れないなんて一体何がしたいのか」「相手が幸福になるのを阻止しようと嫌がらせしているのでは」「駄々をこねればこねるほど気持ちは離れるし元に戻る可能性は低くなるのになぜそれがわからないのだろう」などと口汚く罵(ののし)られるのが目に浮かびます。婚姻関係となればなおさら、離婚してもらわないことには新たな恋人と関係を深めることも子どもを作ることも難しいため、前出の「別れたいと切り出した恋人」よりも激しく非難されるかもしれません。 要は相手の気持ちあっての恋愛において、どちらが間違いというのは特になく、自分が肩入れしたいほうが被害者に見えるし、そうでないほうが悪に見えるというものなので、別れようと言っている彼も、まだ好きで別れたくないと思うあなたも、どちらが間違っているとか悪いとかいうことはありません。逆に言えば、自分には何の落ち度もないのに相手の友人たちの中ではとんでもない悪者に見えてしまうというのも恋愛の特性であるわけです。 ■相手の友人の立場なら、どんな悪口が思い浮かぶか 私は相手の希望とこちらの希望が重ならないとき、相手の友人の立場になって、どんな悪口が思い浮かぶかを考える癖があります。そうすると自分が逆の立場であったり友人の立場であったりした際の記憶が呼び起こされて、「ああ私、今あの話で言うとあの人のポジションにいることになるのか、嫌だな」という風に、少しだけ自分の振る舞いを客観視できるようになるからです。 それは私の、相手にどう思われているかを気にしてしまう性格や見栄っ張りなところが大いに関係している習慣なのかもしれません。でも、私の場合は「相手の気持ちになって考えろ」と言われても、恋愛の渦中で自分の好きな人、あるいは嫌いになった恋人の気持ちになって考えるというのは到底無理なので、その周辺の友人の気持ちを想像するほうが容易(たやす)いのです。