「生涯をかけ、入所者の生きた証しを伝えたい」歌手・沢知恵さんとハンセン病療養所の30年 瀬戸内海の小島に歌声響かせ
冒頭に歌ったのは、園歌「開拓の歌」だ。10歳で園に入所した宮崎かづゑさん(96)が、収容所の日々をつづった文章も沢さんが朗読した。宮崎さんをはじめ、入所者の中尾伸治さんと石田雅男さん、懐子さん夫妻も参加した。 ▽使命 目の前で演奏を聴いてくれた入所者たちは皆、高齢だ。一緒に過ごせる時間は限られている。 「入所者の方々とこの空間を分かち合えたことを、一生忘れない」 ハンセン病の歴史を園外にも伝え、この場所をいつまでも忘れないようにする必要があることを再確認した。 「生涯をかけて、ハンセン病の負の歴史と入所者一人一人の尊厳を伝えるのが、私の使命」 ▽再び、あの桟橋で 2023年8月、大島青松園でのコンサートが終わった後、大島の桟橋で、沢さんが高松港へと戻る観客の船を見送っていた。 その桟橋は25年ぶりに島に来訪した時、入所者たちが「ともえちゃーん!」と手を振り、涙ながらに再会を喜んでくれた場所だ。
あれから約30年。今度は島外から訪れた観客に「来てくれてありがとう」と思いを込め、船が海の向こうへ見えなくなるまで、力いっぱい手を振り続けた。 「療養所に生きた人々の優しさ、温かさ、そして苦しさから、人間として大切なものを教わった。幼い頃の自分を覚えてくれ、入所者の方々が与えてくれた愛に、自分なりの形で応えたい」 いつか入所者がいなくなる日が来ても、沢さんは島で歌い続け、ハンセン病の歴史と入所者の生きた証しを伝え続けることを、心に決めている。