ベトナムが中国発大手EC「Temu」などを相次ぎ制限。中国をけん制…背景に南北高速鉄道PJか
ベトナムが抱える「高速鉄道ビッグプロジェクト」
そんなベトナムは現在ビッグプロジェクトが控えている。 北部の首都ハノイと南部最大の商業都市ホーチミンをつなぐ南北高速鉄道で、ベトナム国会は11月30日、建設方針を承認した。 日本の新幹線と同じ標準軌(1435ミリ)を採用した線路の総延長は東京~鹿児島中央間の約1464キロメートルを上回る約1541キロメートルで設計最高速度は350キロ。総事業費は約670億ドル(約10兆円)で2027年に着工し、2035年の完成をめざす。 日本をはじめ世界各国が注視するプロジェクトだが、この高速鉄道とは別に、ハノイを含む北部地域の要衝をつなぐ鉄道網整備が中国支援で進み始めているため、「状況次第ではこの南北高速鉄道も中国マネーを受け入れる可能性が取りざたされている」(ベトナム紙記者)という。 日本はインドネシアの高速鉄道建設でも当初は受注の可能性濃厚とされたが、最終的に中国に奪われた経緯があるため今回も「トンビに油揚げ」の再現となる可能性が指摘されはじめたわけだ。 ただしインドネシアの場合、首都ジャカルタと西ジャワ州の大都市バンドンの142キロメートルを45分で結ぶ高速鉄道「Whoosh」(ウーシュ)の建設工費は当初の予定から約3割増となる72億ドル(約1兆800億円)も膨張。多くは中国からの借り入れでまかなわれた。「インドネシアに公費負担を求めない」という中国の当初提案も反故となり、インドネシアは国費投入を余儀なくされ政権批判の材料となっている。ベトナムはこのインドネシアの経緯をよく研究している、とも。 ベトナムの南北高速鉄道建設プロジェクトで中国の鉄道建設最大手の国有企業、中国鉄建の戴和根会長は11月、チン首相との面会で「ベトナムの高速鉄道や都市鉄道の建設に参加したい」と興味を示した。しかし先述のように中国への警戒心を抱くベトナムは、これまで資源開発やインフラ整備で中国資本の流入を抑えてきた経緯もあり、チン首相は10月中旬、ラオスで石破茂首相と会談した際には、「この計画への円借款を」と要請している。 日本政府は今後のベトナム政府の議論を注視する構えだが、ホーチミンでは約2000億円の円借款を投じた地下鉄(約20キロメートル)の開業が、当初計画から約10年遅れているうえに一部日本企業は工事遅延による追加費用を巡る紛争なども抱えており、少なくとも表面上は中国を出し抜くような迅速な動きとなっていないのが実情だ。 第二次大戦後の独立戦争では残留日本兵の協力もあった経緯から親日感情が強い。日本発コンテンツは世界的に人気があるが、ベトナムでは特に『ドラえもん』が多くのベトナム人の心を掴んでおりスーパーマーケットでも登場人物のイラストが配された商品によく出くわす。南部の高原都市ダラット郊外にはファンが自力で「のび太の家」など日本の街角をモチーフにしたゲストハウスを作っており、訪問客が空き地や土管の前でバットとグローブを手に「映える」写真の撮影に興じている。 社会主義国でありながら中国のような共産党一党独裁とは違い、ベトナムは党と政府のバランスがほどよい。今も技能実習生を日本に最も多く送り込んでいる国だが、中国と日本、経済と安全保障、本音と建て前のはざまで今後どのような動きをするのか。 日本は注視するだけでなく、積極的なアプローチの仕方も含めて一層の研究が求められているといえそうだ。 (The News Lens JAPAN編集長・吉村剛史)
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