「熟成魚文化」を東京に 人口1万人の町が公認する「ご当地酒場」とは
「私たちの町のおいしい食材を東京の人にぜひ食べていただきたいのです」。福井県美浜町の戸嶋秀樹副町長はそう言って胸を張った。6月29日、「東京日本橋タワー」地階に居酒屋「熟成漁場(ぎょば)福井県美浜町」がオープン。これに先立つ同店のプレスイベントに戸嶋副町長や役場職員が駆けつけ、同町の名産品をPRしていた。町は、開店したばかりのこの店舗に「さらに販路を広げてもらい、町の産業を活性化させたい」という、そんな期待を込めている。
美浜町は、福井県南部に位置する人口約1万人の町で、日本海の若狭湾に面している。漁業が盛んで、一年を通じて、ブリやフグなどが水揚げされる。ここには先人が残してきた「発酵」と「熟成」という食文化があり、そうした食材を提供するのが同店の特徴だ。鯖を糠に漬けて発酵・熟成させた「へしこ」がその代表例だろう。 美浜のへしこは、糠と塩に漬けるだけでなく、醤油や酒、みりんなどの調味料を使用するのが特徴。町内だけで年間約30万本を生産する。2005年には同町が「へしこの町」を商標登録したほどの力の入れようで、「満点☆青空レストラン」などのテレビ番組で取り上げられたこともあり、全国で消費されるようになった。
同月2日には、同店を経営するファンファンクション(東京都中央区)と美浜町との間で、販路拡大などを盛り込んだ連携協力協定を締結した。だから「熟成漁場(ぎょば)福井県美浜町」は、正真正銘の同町の公認居酒屋なのだ。 同町の農家や漁協が直接、野菜や魚といった食材を卸す。供給の多寡にかかわらず、同店が食材を一定の価格で買い取るので、 農家や漁師は、売価の乱高下に悩まされることがない。店にとっても、直接買い取ることができるから、お手頃な価格で提供できるというメリットがある。同社は、自治体の協力を得て経営するこの形態を「ご当地酒場」と呼んでいて、2014年には外食産業記者会が主催する「外食アワード」を受賞している。