「熟成魚文化」を東京に 人口1万人の町が公認する「ご当地酒場」とは
店の食材は、海産物をはじめ、米や野菜も、ほとんどすべてが福井県産。ファンファンクションの合掌智宏社長は福井市出身で、店名も食材も経営者もすべて“福井づくし”。福井にはほかにもカニなどおいしい海の幸があるが、なぜ熟成魚を売りにするのだろう? 合掌社長は「新鮮な魚がうまい店は、東京のどこにでもあるんですよ。だから、ほかにはない文化を紹介したかったのです。美浜のおばあちゃんたちは、魚を新鮮なうちにすぐ食べるのではなくて、1週間寝かせたほうがいいと言います。その熟成文化を取り上げることにしました」と説明する。東京の飲食店では、霜降り和牛に次いで、赤身の熟成肉がブームとなり、これを食べさせる店が増えてきた。しかし、魚を熟成して食べさせる店は、まだそう多くない。 美浜のおばあちゃんたちの言葉に従うように、塩蔵熟成の「塩熟ぶり」、そして高温高湿熟成の「美浜熟成魚」といった、熟成魚を中心に提供する。「美浜熟成魚」は、町の漁港近くにある専用の熟成庫で寝かせたものだ。魚を寝かせることで、タンパク質がアミノ酸へと分解され、旨味成分が増すのだという。
熟成魚の刺身盛りのうち、鰤(ぶり)を一切れ箸にとって口に運ぶ。鰤の刺し身と言えば、新鮮でこりこりとした食感がおいしいが、熟成魚の場合は、ねっとりとした旨味と甘みが口の中に残る。寿司や魚と相性が良いという毛利酒造(福井市東郷二ケ町)の純米大吟醸酒「紗利」を口に含むと、今度は、口の中が華やかでさわやかな香りに満たされた。毛利酒造の毛利徹郎さんは「福井の魚でいうと小鯛の笹漬けには、相性ぴったり」と説明する。 次いで出された「熟成塩鰤の旨酒煮」は一口で気に入るだろう。塩鰤というのは、鰤の内臓をとりのぞき、身に塩をすりこんで熟成させたもの。その切り身と大根が鍋で煮られている。塩鰤の出汁が、ほどよく固い大根に染み込んでいて、絶妙の塩加減と旨味を引き出している。塩鰤の身よりも大根の方に味わいがあるとは想像せず、思わずうなってしまう。