「お寺の奥さんには向かないぞ」両親の反対の末に“自由人な妻”を得た住職の波乱万丈生活
「現代の苦しみに寄り添い、解決に導いてこそ仏教の価値がある」 「お寺はあらゆる人々に開かれているべきだ」 虚しく響く私の言葉を聞いて、妻だけはいつも背中を押してくれた。さすがしがらみのない世界に生きてきた人は、曇りない目で社会を見ていると思った。 業を煮やした私は、妻以外ほとんど理解者のいないままに、2009年8月に「フリースタイルな僧侶たち」というチームを発足させ、自分たちの思いを綴ったフリーペーパーを発行しようと決めた。「たち」と複数形にしているわりにソロプロジェクトに近かったが、フリーペーパーを配布し続けて、街中で自分の思いを伝えていけば、いつか振り向いてくれるお坊さんも増えてくるだろうと願った。 妻の妊娠がわかったのは、ちょうどその準備をしていた頃だった。さすがに動揺した。知恩院に週5日奉職しているところに、新しい仕事を抱えれば、私が育児にかかわる時間はどうしても減る。ましてや収入の足しになるとは到底思えないフリーペーパーの発行など、良い顔をするはずもない。「このまま進めてもいいのか」と、おそるおそるおうかがいを立てた。そうすると、すぐに「もちろん」と返事してくれた。あっけにとられた。「理解ある妻でよかった」と感謝した。そして、この言葉を鵜呑みにして、ますます自分のプロジェクトに打ち込んだ。
● 向き合えなかった 妻からのSOS 出産とともに専業主婦になった妻は、娘が寝ているあいだにはフリーペーパーの編集にも絶えず助言をくれる参謀役だった。ママライターとしても活躍し、コンテンツが不足しがちな中で、創刊号から四年半にわたって「ヘルシー精進レシピ」を執筆してくれた。精進料理といえば、お坊さんが修行中にいただく粗食のイメージを抱く人が多いだろう。しかし、妻のレシピは、「ラタトゥイユ」「アンダルシア風ガスパチョ」「お豆腐ケークサレ」など型破りなものばかり。魚や肉を使わず、ニンニクやタマネギも使えないなどの精進料理のルールを守ったうえで、いかに美味しく、見た目にも色鮮やかなものを作るかに徹底してこだわり抜いた。 フリーペーパーの誌面では、他にも尖ったコンテンツを載せ続けた。仏教をモチーフにした歌で教化活動する「歌うお坊さん」や、紙芝居や人形芝居を上演して全国に笑顔を届けるお坊さんなど、変わり種とされていたお坊さんも数多く取材した。個性を押し殺してマニュアル通りに生きるのではなく、個性を発揮してもがきながら新しい仏教を作っていく。そんな「フリースタイルな僧侶たち」の活動は、多様な価値観が認められる時代にふさわしい仏教を提案するものだとして、大きなインパクトを与えた。