ルネサス、第5世代R-Car第1弾車載用SoC「R-Car X5H」発表 TSMCの3nmプロセス採用で消費電力30~35%低減
■ 2025年上期にサンプル出荷開始。量産は2027年下期開始予定 ルネサス エレクトロニクスは11月14日、Armコアを搭載する第5世代R-Car第1弾製品として、車載用SoC(System on Chip)「R-Car X5H」を発表した。 R-Car X5Hは、TSMCの最先端車載用3nm(ナノメートル)プロセスを採用した高集積化により、5nmプロセス比で30~35%の低消費電力化を実現。ADAS(先進運転支援システム)、IVI(車載インフォテインメント)、ゲートウェイの複数のアプリケーションに使用できる新世代の車載用SoCとしている。 R-Car X5Hは、2025年上期に一部の自動車顧客向けにサンプル出荷を開始し、2027年下期に量産を開始する予定。また、ルネサスでは第5世代R-Carプラットフォームとして、今回発表したR-Car X5Hをはじめとする64ビットSoCから、32ビットマイコンとしてArmコア搭載の新しいR-Carマイコンも展開して、車両制御用のポートフォリオを拡充する計画。ボディとシャシー向けにセキュリティを強化したArmコア搭載の車載制御用マイコンは、2025年第1四半期にサンプル出荷を開始する予定。 TSMCの車載用先端3nmプロセスを採用 R-Car X5Hは、アプリケーション処理用に32個のArm Cortex-A720AE CPUコアを搭載し、1000k DMIPS以上の性能を発揮。また、6個のCortex-R52 CPUコア(ロックステップ)で60k DMIPS以上の性能を実現し、外付けマイコンなしでASIL Dを実現可能。 さらに、最大400 TOPS(Sparse)のAIアクセラレータと、最大4 TFLOPSのGPU(Graphics Processing Unit)を搭載。チップレット技術を適用したことにより、AI性能やグラフィックス処理性能を拡張することも可能としている。 R-Car X5Hは、TSMCの車載用先端3nmプロセスを採用したことにより、5nmプロセスで設計されたデバイスより消費電力を30~35%低減。優れた電力効率により冷却部品を削減できるため、システム全体のコストを低減しつつ、EV車両の航続距離の延長にも貢献するという。 チップレットの追加により柔軟性と性能を向上可能 R-Car X5H は強力なAIアクセラレータであるNPU(Neural network Processing Unit)とGPUを搭載。これをベースにチップレットを追加することで性能の向上ができるという。例えば、R-Car X5H のAI処理性能は400 TOPSであるが、外付けのNPUチップレットを組み合わせれば、AI処理性能を3~4倍以上に向上させることが可能とのこと。 R-Car X5Hではシームレスにチップレットを追加できるよう、チップレットのダイ間を接続する標準規格UCle(Universal Chiplet Interconnect Express)とAPI(Application Programming Interface)を提供し、マルチダイシステムで(ルネサス以外のチップを含む)他チップレットとの相互運用性を促進。この柔軟な設計手法により、ユーザーはさまざまな機能を組み合わせ、車両プラットフォーム全体のアップグレードに備えて、システムをカスタマイズ可能としている。 セキュアな分離により、ミックスド・クリティカリティを実現 SDV(ソフトウェア定義車両)の開発において重要になる安全性については、R-Car X5Hではハードウェアベースの無干渉(Freedom from Interference:FFI)技術を適用。このハードウェア設計により、ブレーキなど高い安全レベルが求められる機能を低い安全レベルの領域から安全に分離できるとしている。 高い安全性が求められる機能は冗長化した独立ドメインに割り当てられ、各ドメインに独自のCPUコア、メモリ、インタフェースを持たせることで、他のドメインのハードウェアやソフトウェアに故障が発生した場合でも影響を受けないようにして、重大な車両故障を回避。R-Car X5Hは、ワークロードの優先順位を見極めてリアルタイムに処理リソースを割り当てるQoS(Quality of Service)管理機能も備えた。 ルネサスの執行役員兼ハイパフォーマンスコンピューティング担当ジェネラルマネージャー、Vivek Bhan氏は「R-Car Gen 5プラットフォームにおけるルネサスの新たなイノベーションは、自動車業界が現在直面している複雑な課題に対応します。お客さまは、ハードウェアの最適化から安全規格への準拠、柔軟でスケーラブルなアーキテクチャの選択、シームレスなツールやソフトウェアの統合まで、あらゆるニーズを網羅したエンドツーエンドの車載システムソリューションを求めています。このようなニーズに応えるのが、R-Car Gen 5ファミリです。ルネサスは、次世代の自動車技術を見据えてSDVの開発とシフトレフトイノベーションを推進する業界全体をサポートしています」とコメント。 TSMCのBusiness Development and Global SalesのSenior Vice President兼Deputy Co-COOであるKevin Zhang氏は「ルネサスのような信頼のおける車載半導体技術のリーディング企業と提携し、TSMCの最先端3nmプロセス技術を用いて最新のイノベーションを市場に投入できることを大変うれしく思います。当社のN3Aプロセスは、先進的な車載用SoC向けに最適化されており、AEC Q-100グレード1の信頼性を備えた業界をリードする3nmの性能を実現します。ルネサスと協力してこのR-Car Gen5プラットフォームを開発し、SDV ‘silicon-defined vehicles’,『シリコン定義車両』の未来を再構築することにお手伝いができることを楽しみにしています」と述べている。 TechInsightsのAutomotive Market AnalysisのExecutive DirectorであるAsif Anwar氏は「SDVへの道筋は、コクピットのデジタル化、車両のコネクティビティ、ADAS機能によって支えられます。車両のE/E(電気/電子)アーキテクチャは、その核となる手段であり、必要となるコンピューティング能力はゾーン型や中央集中型のコントローラに機能や性能が統合されていきます。TechInsightsは、ゾーンコントローラおよび高性能コンピューティングSoCプロセッサ市場は、2028年から2031年の間に年平均成長率17%で成長すると予測しています。ルネサスは車載プロセッサのトップ3サプライヤであり、SDVの要件に合わせて拡張可能な第5世代R-Car X5H SoCは、数十年にわたる経験のたまものです。R-Car X5H SoCは、3nmプロセスを活用することにより、最適化された電力で車両プラットフォーム全体に使用できる多用途のソリューションセットを実装することを可能にします。これをRoX SDVプラットフォームと組み合わせることで、ルネサスは、自動車業界の市場投入までの時間を短縮するソフトウェアファーストのアプローチを、複数ドメインに渡って提供できるようになります」とコメントしている。
Car Watch,編集部:椿山和雄