クロップ率いるリヴァプールがCL決勝で見せた輝き。ジョーダン・ヘンダーソンが語る「あと一歩の男」との訣別
史上最高の決勝ではない? そんな発言はどうでもよかった
僕たちはキックオフからスパーズ(トッテナムの愛称)を引き裂いた。 僕は最初の争奪戦でヘディングに勝ち、そのあとスパーズ陣の真ん中あたりでボールを受け、左サイドのサディオ(マネ)にパスをした。彼はペナルティエリア内に切れこみ、ボールを上げる。近くにいたムサ・シソコがブロックしたが、高く上げた右腕にボールが当たった。スロベニア出身のダミル・スコミナ主審はまっすぐペナルティ・スポットを指さした。試合開始からまだ25秒だ。モー(モハメド・サラー)が蹴る。彼はコースを狙うよりも強い球を蹴り、飛びついたウーゴ・ロリスの手の先を抜け、ネットが破れるかというほどの強烈なゴールを決めた。 その時点からすでに、史上最高の決勝ではないなどと言う人々もいたが、そんな発言はどうでもよかった。もし負けたら、史上最高の決勝かどうかなど、どちらでもよくなってしまう。あの決勝には、数多くの大一番や重圧のもとでのプレー、チームのために働いてゲームをコントロールするといった、さまざまな経験が生かされていた。普段以上に気持ちが入っていたかもしれないが、試合をしっかりとコントロールしており、スパーズに多くのチャンスを作らせなかった。 アリソンは何度か好セーブを見せた。よく覚えているのはクリスティアン・エリクセンのフリーキックのときだ。だがトレント(アレクサンダー・アーノルド)とフィルジル(ファン・ダイク)――彼は1度、驚異的なリカバリーでソン・フンミンを止めた――、ジョエル(マティプ)とロボ(アンディ・ロバートソン)もすばらしい守りだった。いや、チーム全体がよく守った。ケインは怪我からの復帰戦だったが、しっかりと封じこめた。彼やソンがカウンターをしかける状況を作らせなかった。あのふたりのカウンターは、芸術の域にまで高められた彼らの強みだった。そして、1点リードにしては落ち着いてプレーしていた終了3分前に、そのときがきた。 ミリーが蹴ったコーナーは押し戻された。競りあいでハンドがあったように見えたためアピールをしかけたが、攻撃はまだ続いていた。ジョエルから足元に出されたボールを、ディヴ(ディヴォック・オリギ)が左足で遠いサイドに叩きこむ。2対0。これで試合は決まり、いよいよその瞬間が近づいてきた。どこを見まわしても、優勝は決まったという雰囲気だ。ゴールが決まったとき、フィルジルは地面に体を投げ出し、ロボとファビーニョはこの日いちばんの速さでディヴのもとへ駆け寄った。僕はその近くで、腕を広げ、声のかぎりに叫んだ。まだ試合は続いている。だが、トロフィーにもう片手をかけた状態だ。僕は走りつづけた。そしてついに、試合終了のホイッスルが鳴る。その瞬間は、たぶんサッカーをやってきたなかでも最高の心地よさだった。