客に失望されても“ハゲキャラ”は拒んだ…「歌丸さん」の落語愛 旧友だから語れる「笑点」とは別の顔
自分の落語会では「笑点」の話は出さなかった
K:あとこないだ亡くなった六代目の三遊亭圓楽さんも、「笑点」に入った頃、なかなかキャラがなかったんですよ。そこで生意気、腹黒っていうキャラを作ったのは歌丸さんなんです。ぼくの悪口を言いなさいって。「やるか、ジジイ」とかね。それで売り出したんだけど、あれは歌丸さんのアイデアなんです。 ――お優しいんですね。 K:そう。二代目の三平さんが入った時も、キャラが立ってないし、うろたえるんですよ。 ――大ベテランの中に入るわけですから余計に、緊張しますしね。 K:するといつも歌丸さんが「焦らなくても、一生懸命にやっているうちに、自分の面白さが出てくるよ」って。三平さんはずいぶんその言葉に救われたって言ってましたね。ところで、歌丸さんは、「バス・ガール」とか、今輔師匠に教わった新作落語をやっていたのに、突然「真景累ヶ淵」とかの圓朝ものをやりはじめましたね。人情噺、文芸落語みたいなのに移っていきましたね。 ――なぜそういう方向になられたんでしょうか。 K:やっぱり、そういう落語もちゃんとできるんだというのを示したかったんじゃないでしょうか。「笑点」でのハゲキャラとかクソジジイキャラとか、そういうおかしさで売るんではなく、自分の落語会ではそういうキャラは一切やらなくなったんです。だからすごく面白い人だと思って呼んだ地方の興行師は、がっかりしちゃうんですね。 ――こういうのを期待したんじゃないって、なりますよね。 K:そう。歌丸さんは自分の中で、分けてやっていたんですね。だから一切、「笑点」の話は振らないんですね。振れば、そっちに話が砕けちゃうからって。 ――そこまで徹底されていたんですね。
木久扇が歌丸との芸談は避けた理由
K:でもお客さんはその落差でがっかりしちゃう。でも歌丸さんは、それを貫いたんですね。それくらい落語愛がある人でね。だって、普通だったら引退しちゃうのに、あんな鼻から吸入器を入れてまで、そういう姿を見せて落語をやったっていうのは歌丸さんが初めてですね。うしろに酸素吸入の機械がついてて、痛々しかったです。だから変な話、歌丸さんがここで死んでくれるんじゃないかって、お客さんが沢山入っていました。みんなハラハラして。ドキュメント落語って(笑)。 ――お二人での会話は、映画の話が主だったんですか? K:あとね、おせんべいはどこが美味しいとか。ぼくは芸談がきらいなんです。あと、歌丸さんとは落語の方向が違うんでね。歌丸さんは笑点での言葉遣いがきれいで、間、間でちょっと皮肉を挟むような話し方は大したもんだと思うんですが、ぼくとは全く方向が違うんでね。だから、芸談は避けましたね。 ――木久扇師匠があえて避けていたんですね。 K:そうですね。歌丸さんは全身全霊で落語愛の人でしたが、ぼくが落語に対する距離は、ラーメン党やったりして、違うものにも興味があったんですね。そういう芸人さんってあまりいないんじゃないかな。だから芸談をしても合わないんです。ぼくは商人の倅だから、「寿限無」(じゅげむ)を何回やったか、それでいくら儲けたかを計算するわけです。例えばぼくの売り上げの中で一番は「寿限無」でダメなのは「首提灯」だと。すると売り上げの一番いいやつをやるわけです。でも他の噺家さんは、売り上げのことまでは考えない ――その発想に直結しませんね。