手塚治虫「火の鳥」の大規模展が3月に開催 生物学者・福岡伸一氏と手塚るみ子氏が語る魅力とは
このほど、福岡氏と、同展に企画協力の形で携わる手塚プロダクション取締役の手塚るみ子氏が「火の鳥」について語り合うトークイベントが報道陣向けに公開された。最初に「火の鳥」の魅力について質問が及んだ。 福岡氏「名作と言われる創作作品には二つの側面があると思います。一つは普遍的なテーマを描いていて、いつの時代にも、どんな人にも問いが突き刺さるものがある。『火の鳥』では生命とは何か、人生の意味はどこにあるのか、不老不死は本当に起こり得るのか、を問いかけている普遍性があります。でも、普遍性を持ってる作品であると同時に、読み継がれる名作になるためには、もう一つの側面がある。それは、非常に個別な問いかけがある。つまり『火の鳥』は、普遍性を持つ物語であるけれども、実はあなただけに描かれている物語ですという個別性を有している側面があると思うんです。私は鳳凰編を最初に読んだのですが、非常にショックを受けました。小学校5年生ぐらいでしたが、我王の苦悩、茜丸の苦悩というのは、これから何者かになるか模索している少年の心に突き刺さりました。手塚治虫の物語の大きなコアは、いじめられっ子の神様であるところ。いじめられてる少年にとって、それを読むと、どこに救いがあるか、どの扉があなたを外側の世界に導いてくれるのか、ということを教えてくれる作品が非常に多くある。そういう意味で普遍性と個別性を併せ持っていて素晴らしいと思いました」 手塚氏「茜丸は手塚治虫の作家としての一面、我王は手塚治虫のこうありたいという一面が備わっていると思います。幼い時に『火の鳥』を呼んだとき、物語がまだ分からなくても、インパクトが子供心に残りました。他の作品に比べてものすごくダイナミックに描かれていて、自由奔放に、漫画のこうあるべきだという壁を全部崩して、やりたい放題という形で絵を描いています。中学生くらいになって、社会が見えてくると、物語のドラマの面白さが見えてくる。過去は大河ドラマのような、未来にはSFの、そこを行き来するのドラマの面白さがある。最後に手塚治虫の人類、地球、宇宙で我々が生きていることに対する思い、哲学的なものが見えてくる。我々が成長するとともに魅力が変わってくるから、読み継がれている作品になっているのではないか」 このように作品の魅力を語った両者。「火の鳥」から見える現代社会への問いかけなど、さまざまなテーマに発展した。そして手塚治虫の「火の鳥」のような、二人にとってのライフワークについて、質問が及んだ。 福岡氏「私は生物学者なので、生命とは何かという問いに対して答えたい、というのが私のライフワークです。科学的な研究で、例えば細胞を観察したり、DNAを解析したりしていますが、最後の出口というのは生命とは何かということを言葉として表現できること。科学の出口であり、哲学の出口でもあるわけです。今は『動的平衡』という言葉で表していますけれども、この『動的平衡』という概念をさらに解像度の高い言葉で解き明かしていきたい。どうして生命は自分自身を壊しながら作り変えるのか、という一種の意識的な活動、物質だったらくだり落ちてしまう坂を、のぼり返そうとする努力が生命にあるわけです。でもそれは細胞であっても、アメーバみたいなものであっても、その坂をのぼり返している、ある種の意志のような努力があるわけです。その実態を、オカルトの言葉、神様という言葉を使わずに解き明かしていくというのが私の学者としてのライフワークかなと思っています」 手塚氏「私は手塚治虫の娘として、手塚プロダクションの役員として、いかに手塚治虫の作品をこの先、どんな時代になっても、新しい世代がどんどん出てても、読み継がれてもらうために何かを仕掛けていかなくてはいけないという風に思っています。手塚作品が誰にも読まれなくて、崩壊してしまわないように。もしかしたら原作を壊すことになる部分、あるいはその改変というようなものをするのかもしれない。いろいろなアーティストによって、原作にないものを生み出すことは、ある部分で破壊行為かもしれないですが、小さな破壊の中でも核という部分は決して壊れないと思っています。遺伝子の核が姿形を変えたとしても、その核の部分は、永遠に、死をまたいでも受け継がれていくように。手塚治虫の核の部分は決して変えないまでも、上の部分というのはいろいろな形に姿を変えて、輪廻転生のように次の世代に読み継がれていくような形のものにしていきたい。それが自分のライフワークになるんじゃないかな」 (よろず~ニュース・山本 鋼平)
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