「X線天文学」で見抜く、元素の起源と宇宙の進化
◇従来機の20倍以上の性能を持った衛星で、希少な元素まで観測 天文学は紀元前から始まっている学問ですが、X線天文学はかなり新しい分野で、1960年頃にスタートしています。そもそもX線で光る星なんて、あるはずがないと考えられていました。太陽の表面温度は約6000℃で、基本的に可視光で光っています。どんなに重い星、つまりエネルギーの高い星でも数万℃程度。X線を放つとなれば、100万℃を超えなければならず桁違いです。 しかし当時、太陽からもX線が出ていることがわかりはじめていました。そのX線を詳しく観測しようという実験が行われたところ、全く違う宇宙空間からものすごく明るいX線源が見つかったのです。この出来事を契機に、衛星を上げて観測しようと発展していったのが、X線天文学です。パイオニアの一人であるリカルド・ジャコーニは、2002年、X線天体を発見した功績により、ノーベル物理学賞を受賞しています。 私自身も、2018年7月から2020年12月までアメリカに渡り、NASA の「ゴダード宇宙飛行センター」という研究所で、衛星開発と観測研究を行ってきました。このとき開発に携わった衛星が、「XRISM (クリズム)衛星」です。この衛星は、光のエネルギーの測定能力が非常に高く、従来の観測衛星の20倍以上の性能を持っています。エネルギーを高精度に測れるようになれば、さらに細かい構造が見えるようになり、これまで観測できなかった希少な元素も確認することができるようになります。 なかでも着目してるのが、リン、塩素、カリウムなど、軽くて量の少ない元素です。これらがどのような星からできたのか、理論的に予測はできているものの、まだ観測ができていません。何がどこでどれぐらいできたのか、観測できれば実証が可能です。そういった希少な元素を調べることは、とても複雑な物理の問題でもある、恒星の進化や爆発の仕組みを知ることにつながります。この宇宙で、どんな星がどれだけ生まれ、爆発してきたのか。我々の体や身の回りにある、生命の種にもなるような元素の起源がわかり、宇宙に生命が宿った歴史を辿れるようにもなります。 XRISM 衛星は昨年9月に打ち上げ、現在はこの衛星の能力がちゃんと発揮できているかを確認するフェーズに入っています。今後、世界中の共同研究者と協力しながらデータを解析し、1年ほどかけて徐々に成果を発表できればと期待しているところです。また、公募観測も実施されるので、衛星は今後「宇宙天文台」として、世界の天文学者の新たな武器となります。