「意外とガチでやってます」国税局が主催する日本酒コンテストは想像以上に熱い戦いだった 全国の酒蔵が技術の粋を競う鑑評会、車で例えるなら「F1の世界」!?
荒川実査官は「おいしいと思う基準は人によって異なる部分があるからこそ、味や香りの原因を科学的に分析して改善につなげられる指摘をするよう心がけている。作り手の皆さんがガチンコで当たってきているから、評価するわれわれも良い酒造りをサポートしたい」と話す。審査を担当する際には1日で100点以上の日本酒を評価することもあるという。アルコールの影響で評価にぶれが生じないよう、酒は口に含むだけで飲み込まず、評価員ごとにテイスティングの順番を変えているというが「さすがに一日やると心身共に疲労困憊になる。打ち上げの飲み会はもっぱらビールです」とぽつり。審査を離れても、酒への愛情は変わらないようだ。 ▽なぜ国税が主催?切っても切れないお酒との関係 ところでお堅いイメージのある国税局が、なぜこうしたコンテストを主催しているのだろうか。背景には、お酒と税の切っても切れない深い関係がある。 明治時代、酒にかかる酒税は国の重要な財源の一つで、1899年(明治32年)には税目別の税収1位を記録。その後時代が進んでも、安定した税の一つであり続けた。一方、密造酒や工業用アルコールを使った粗悪な酒造りも横行し、健康被害が相次ぐなど社会問題化する事態も発生した。 対策として国は酒の醸造技術の向上に乗り出すようになり、1911年に日本酒の酒造技術を競う全国新酒鑑評会(現在は酒類総合研究所などが主催)がスタート。各地の国税局の鑑評会はその予選としての位置づけとして始まり、その後独立したコンテストとして発展していった。地域によっては、入賞した蔵の中での順位をつけなかったり、九州、沖縄などでは焼酎や泡盛も評価対象としたりするなど違いもある。
鑑評会をとりまとめる国税庁の大江吉彦鑑定企画官補佐は「税金を払ってもらう以上、せっかくならおいしいお酒を楽しく飲んでほしい。酒の品質を高めることは、税を課す根拠を強めることにつながるからこそ、国として作り手が切磋琢磨できる場を提供している」と解説する。 ただ、酒蔵の高い技術が詰まった鑑評会に出品される酒は製造量が限られ、なかなか町の酒屋では手に入らない品も多い。結局、消費者の口に入らないのでは意味がないのでは、と大江補佐に疑問をぶつけてみると「車で例えるなら鑑評会はF1なんです」と返答があった。「F1に出ている車は実際に買えるわけではないけど、良い成績を収めるメーカーは基本的な車の製造技術が高く、一般向けにも応用している。お酒も同じで受賞酒が一番おいしいという意味ではなく、酒蔵としておいしいお酒を造れる技術を持っていると思ってほしい」。 各部門のトップとなる最優秀賞の受賞酒でも、四合瓶(720ミリ)で5千円程度で購入できるものもある。機会があれば車よりは手軽に高い技術を味わえるかもしれない。