片道1時間40分の自転車通学と、重さ2kgの自家製鉄バットで磨いた長打力「ボールを誰よりも遠くに飛ばしたい」
プロ志望届を提出した東北福祉大学の外野手・漁府輝羽(ぎょふ・こうは、4年、おかやま山陽)は身長183cm、体重96kgの恵まれた体格を持つ右の長距離砲だ。コロナ禍の高校時代、「プロ志望高校生合同練習会」に参加し、木製バットで柵越えを放って注目を集めた。NPBの5球団から調査書が届いたが、指名漏れ。4年の月日を経て、自身2度目のドラフトには「プロ一本」で臨む。 【写真】おかやま山陽高校時代から、長打力が魅力だった漁府輝羽
自らの持ち味を取り戻した、一本の電話
今年3月24日、石巻市民球場で開催された東北地区社会人・大学野球対抗戦。Bチームのメンバーで編成した東北福祉大は日本製紙石巻に8-6で勝利した。この試合の一回に左翼席へ運ぶ先制の3点本塁打を放ったのが、「4番・右翼」でスタメン出場した漁府だった。試合後の取材で本塁打の打席について聞くと、声を弾ませた。 「昨日、高校の監督から電話が来て、『お前は自分のスイングをして、ホームランだけ狙っていけ』と言われたんです。大学に入ってからの3年間、結果が出ずに苦しい思いをして、これまでは試合に出るために三振を減らして率を残そうと、当てにいく打撃をしてしまっていた。今日、監督の言う通り自分のスイングをしたらホームランを打てました」 3年秋まではリーグ戦出場なし。大学からのNPB入りを確固たる目標にして進学したがチャンスをつかめず、「試合に出ていないので、自分がどう評価されているのか分からない。本当にプロにいけるのか……」と日に日に不安が増していった。 そんなさなかに飛び出した一発を機に、練習試合で本塁打を量産。リーグ戦は4年時も春の2試合のみの出場で計3打数無安打に終わったものの、スカウトから声をかけられる機会が増えたこともあって自信を取り戻し、7月にプロ志望を固めた。きっかけを与えてくれた言葉の主は、おかやま山陽の堤尚彦監督。恩師であり、母子家庭で育った漁府にとっては「父親代わり」でもある。
長打力の源は「自転車通学」と「自家製鉄バット」
岡山県倉敷市出身の漁府は小学生のときにソフトボール、中学3年間では軟式野球をプレーした。高校は堤監督に誘われる形で、おかやま山陽へ。硬式野球にすぐに適応し、2年春からレギュラーの座をつかんだ。 おかやま山陽の校舎とグラウンドは倉敷市に隣接する浅口市にあり、漁府の自宅からは約20km離れていた。当初は電車で通学する予定だったが、堤監督から「下半身を鍛えろ」との助言を受け、自転車で片道を約1時間40分かけて通った。 毎日の自転車通学と、自宅で取り組んだ約2kgの自家製鉄バットを使った素振りが功を奏し、長打力がみるみるうちに向上。中学軟式では打った経験がなかったという柵越えの本塁打が次々と飛び出した高校時代を、「元々強いスイングには自信があったんですけど、硬式は強く振れば振るほど飛んでいった。楽しかったですね」と振り返る。 3年時に新型コロナウイルス感染拡大の影響で公式戦や対外試合の中止が相次いだにもかかわらず、高校通算24本塁打を記録。甲子園も中止を余儀なくされた中、阪神甲子園球場で開催された「プロ志望高校生合同練習会」で放った一発が大きなインパクトを残した。