植物性で「肉を食った!」と思わせる素材を開発せよ
そういう定量化できない部分の理解や想像が「うちの社員はまじめな分だけ足りないんだ」と清水さんは言っていた……ような気がします。ですが23年に広報のOさんから、「おいしさ」のブレークスルーになるかもしれない研究が進んでいます、という話を聞かされて、「じゃあ、清水さんの宿題がいよいよ解けるのかな」みたいな感じで、興味津々で大阪にやってきました。 齋藤:いやいや、もう、すみません。そこまでハードルが上がるとは(笑)。 広報Oさん:期待値を上げ過ぎましたかね……。 齋藤:やはり、おいしくなければ食べていただけない、これは日々感じていることです。当時、清水にも常日ごろ、そういうことを言われ続けていましたので。 やっぱり言われていたんですか。 齋藤:はい、それはもう。 清水洋史氏(以下、清水):大豆を多くの人々のたんぱく源にしていこうというならば、合理性や安全性だけでは片付かない大きな問題がある。これは、食べ物だからこその理由なんやけどね。 なんでしょう。 清水:味です。 あ、そりゃそうか。薬じゃないですからね。 清水:そう、薬なら苦かろうがまずかろうが仕方ないけど、食べ物はおいしくないといかん。大豆たん白(※)由来の食品が、動物由来の肉とか乳に劣っているところはどこだというと、味なんですね。(※不二製油グループ本社の「たんぱく」の表記) ……しかし、はっきりおっしゃいますよね。 清水:だってYさんも皆さんもそうでしょう。もちろん私も含めて、人間は、残念ながら「必然性があればまずくてもいいわ」とは、いけへんわけですよ。人間はおいしいかどうかを評価して、おいしくなければ食べない。はっきりしています。 2018年8月17日掲載「環境に優しいけどまずい食べ物、買いますか?」より 植物性の食材が肉にかなわないのは、シンプルに「おいしさ」。その最大の問題が解決されるのなら、代替食品の可能性が一気に広がりますよね。ということで、お話を伺っていこうと思います。齋藤さんは、やはり理系の研究開発職の方なんですよね? ●「おいしさ」とは縁遠い仕事をしていました 齋藤:はい。ずっと研究開発の人間なんですよ。大豆のたん白(不二製油での「たんぱく」の表記)を中心にした素材の開発・研究をいっぱいやっていたんですけど、2015年に10年ぶりに基礎研(現:未来創造研究所)に戻ってきて、同じ大豆たん白の仕事なんだけど、「これからはおいしさの研究開発のマネジメントをやれ」と。 戸惑いました? 齋藤:ええ。一社員としてその意味を理解しようと努めてはいたのですが……。 まあ、でも、「おいしさ」は、食品を扱うなら当たり前のテーマなのでは。 齋藤:ご存じないかもしれませんけど、大豆たん白の素材、昔の大豆ミート、今は粉末状のプロテインパウダーといわれているものですが、これにはまず機能が優先されてきました。 おいしさよりも機能?