【大学野球】防御率1位になれずもチームの勝利を優先 背番号「11」が似合う投手になった早大・伊藤樹
「優勝するまでがエースの役割」
【6月1日】東京六大学(神宮) 早大8-1慶大(早大1勝) 早大が2020年秋以来、47度目の東京六大学リーグ制覇へ王手をかけた。勝ち点奪取(2勝先勝)が条件である慶大1回戦を先勝した(8対0)。この大一番で先発を託され、8回3安打1失点で勝利投手となったのは右腕・伊藤樹(3年・仙台育英高)である。 【選手データ】伊藤樹 プロフィール・寸評 早大・小宮山悟監督は入学以来2年間「取り組みが甘い」と厳しく接してきたが、上級生になって、評価は一変。天皇杯奪還へあと1勝とした慶大1回戦の快投を受けて言った。 「戦う前から自分の投球をすれば勝てると見ていた。ちらつく防御率のタイトルが邪魔をしたので、(可能性がある)明日の最後の胴上げ(投手)で投げるか? どうするかを聞くと『完封したい』と意欲を示してきた。残念なことに失点して、遠のいてしまいましたが……。(今季は)投げた試合、すべて見事な投球。『11』を渡して良かったと思います」
7回まで無失点投球。8回をゼロに抑えれば、防御率1位だった明大・高須大雅(3年・静岡高)の数字(1.38)を上回るところだったが、伊藤樹の防御率は1.50となった。あくまでも、チームの勝利を最優先したのである。
試合前にはとっておきのアイテムを携えて、ウォーミングアップしていた。「日本一からの招待」とプリントされた仙台育英高のタオルを持ち込んだ。「もう、神頼みです(苦笑)。恩恵を受けようか、と。神宮で使うのは初めてです」。必勝アイテムで、安心感を得たという。この日でリーグトップタイの3勝目。シーズンを通しての823球はリーグ最多で、まさしく主戦としての働きを見せている。 「ボールは間違いない」と、NPB通算117勝の小宮山監督が認める素質がありながらも、期待に応えられなかった2年間。本来、早稲田の背番号「11」は、チームの信頼を得てつかむ特別な数字だが、奮起を促すために与えた超異例の流れであった。伊藤樹は指揮官の期待に十分応えているが、喜ぶのはまだ早い。 小宮山監督は慶大2回戦で終盤までリードした展開での「胴上げ投手」を示唆も、伊藤樹はあくまでも慎重である。背筋を伸ばした。 「この背番号に対しての思いは年々、強くなっている中で、3年生から着けさせてもらっている。優勝するまでがエースの役割。仮に2回戦を落としても3回戦に勝って優勝したい」 横で聞いていた小宮山監督は、伊藤樹の頼もしい言葉を、胸にかみしめていた。立場が人を育てる。伊藤樹は歴代エースが背負ってきた背番号「11」が似合う投手へと成長した。 文=岡本朋祐
週刊ベースボール