a子が語る、クリエイティブチームとともに音楽を作る理由、「SXSW」から受けた影響
本当に聴いたことがない音楽を作ることを目標にしている
―先日、渋谷のサーキットフェス「SYNCHRONICITY’24」でライブを拝見したんですが、ウィスパーボイスで歌うようになったのは何がきっかけなんですか。 a子:上京したときはすごく悩んでいました。そもそも自分の声質が全然好きではなくて、自分に一番良い歌い方って何かあるかなってずっと探っていて。そのときにふと思い出したのが、中学生のときにアメリカのTVオーディション番組「The Voice」で観たメラニー・マルティネスっていうアーティストなんです。他のオーディション出演者の方々は、「ザ・アメリカ」みたいなパワフルなボイスで歌唱力もバチバチにある人たちが上位の方にいたんですけど、メラニーだけは声質がハスキーボイスで歌い方もすごく独特で、他の出演者さんとはちょっと違った魅力で優勝していました。自分は歌に自信がなかったのでアーティストにはなれないかもと思っていたのですが、そのメラニーの世界観を知ったことで、何か違う道もあるんかなって感じたことを、上京したときに思い出したんです。それと当時、ビリー・アイリッシュがウィスパーで出てきたときだったので、「こういう歌い方でもポップシーンに行けるんや」と思って。それとドリームポップもそのときにすごく流行っていて、メン・アイ・トラストとかザ・マリアズとか、その辺りのすごく好きなアーティストたちがみんなウィスパーな感じの歌い方で歌っていて。「自分もこれかもしれない」と思ってたくさん練習して、「このスタイルだと自分の声質がすごく好きな声に聴こえる」と思えたので今のスタイルになりました。 ―ライブのサウンドチェックに時間をかけていたのも、楽器の音とボーカルの音域が重なって聴こえなくならないようにとか考えることが結構あるからですよね。 a子:そうなんですよ。バンドメンバーは多分すごく苦労してて、特にドラムはだいぶ抑えて叩いてくれてると思います。私も結構細かく確認する方なんですけど、うちのバンドでちゃんと音楽的に全部わかっていて他の楽器とかも勉強しているのが、一緒にトラックを作っているバンマスの中村さんで、ボーカルがしっかり聴こえるようにしっかり調節してくれています。でもやっぱりまだまだボーカルがパッと聴こえるような演奏はできていないので、結構試行錯誤していて、「次のライブでは、今考えてる別の方法でやってみようか」みたいなことはありますね。 ―ライブはまだ試行錯誤中なんですね。「SYNCHRONICITY’24」ではダンサブルな曲を並べたセットリストに感じましたけど、どんなことを考えて臨んだライブでしたか。 a子:「SYNCHRONICITY’24」の前に、アメリカの「SXSW 2024」で3ステージ出演させていただいたんですけど、そのときに海外の方に受けが良かったのがやっぱり4つ打ちの曲だったんです。その海外の方の反応がすごくわかりやすかったので、ライブって4つ打ちの方が聴いてて気持ちいいのかなと思って、日本でも1回やってみようと思ったのが「SYNCHRONICITY’24」のライブでした。海外で演奏したことでいろいろ勉強になりましたね。 ―曲づくりにも影響が出そうですか? a子:本当に最近の話なんですけど、「作り方をちょっと変えよう」という話になって。キメとかフィルのことをまとめて“アクション”って呼んでるんですけど、自分たちの曲にはその“アクション”があんまりないと思っていて。これまで、サビの前に音をわざと抜いてギター1本だけにしてからサビに行くみたいなことを結構やってたんですけど、そういう作り方をするんじゃなくて、アクションの瞬間に音がちゃんと重なって曲が飽きないようにやってみようかって。ポップスというか、曲にメリハリをつけてもっと面白く、聴いてワクワクする感じをもっとやってみたいなっていうのを本当に2日前とかに話し合ったんですよ。サカナクションさんの復活ライブの初日を観に行ってさらに刺激を受けてそう思いました。 ―さきほど、すごく高いところを目指しているとおっしゃっていましたけど、どんな目標があるのか教えてください。 a子:誰も聴いたことがない、「何だこれは?新しいジャンルに聴こえるぞ」みたいな、音楽を作ることを目標にしているんです。私は学生の頃にサカナクションさんの音楽を聴いて、「なんだこれは!?」ってすごく衝撃を受けたんですよ。音楽ってすごく長い歴史があって、もうジャンルは出し尽くされてるものだと思っていたのに、「このジャンルとこのジャンルを組み合わせてまさかの新ジャンルに聴かせることができる」みたいな。自分はそういう音楽をやりたくてずっとそのことを考えているんですけど、技術不足、知識不足、勉強不足もあって、本当にこれが超難しくて。自分の長い音楽人生の中で、「a子といえばこの音楽だよね」みたいなものを作るのって、本当に成功できるかできないかのチャレンジだなって思います。それが、改めてアクションの付け方とかサカナクションさんのライブを観に行っていろいろ気付かせてもらって、「a子に必要なことはこれかも」みたいなことは、本当につい最近感じています。 ―曲にアクションを付けるっていうことで、バンドメンバー全員でセッションしてアレンジする可能性もある? a子:とくにそういうことではないんですけど、1回バンドで作った曲もあって、今後出そうとは思ってます。今の作り方としては、中村さんと私が決めたアレンジを、バンドメンバーにそのままやってくださいって伝えている感じです。