感染症の文明史【第3部】地球環境問題と感染拡大 1章 人類が自ら招いた危機:(2)膨張する都市がもたらした悲劇
高齢化は感染症の危険因子
世界の総人口に占める65歳以上の者の割合(高齢化率)は、1950年の5.1%から2020年には9.3%に上昇した。2060年には17.8%にまで上昇すると予測される。人口構成の若い途上地域でも高齢化が始まり、高齢化率は1950年の4.1%から2020年には5.9%へ上昇した。今後も世界的に高齢化が急激に進むことになる。 日本の65歳以上人口は、1950年には総人口の5%に満たなかったが、1970年に7%を超え、さらに1994年には14%を超えた。高齢化率はその後も上昇をつづけ、2023年には29.1%に達した。今後の予測では、日本は2060年代に韓国に抜かれるまで世界トッププランナーである。高齢者は、一般的に免疫機能が衰えているため感染症に罹患(りかん)しやすく、いったん発症すると長引いたり、合併症を起こしたりすることも少なくない。 合併症で最も多いのが2次感染による肺炎である。肺炎は日本人の死因の第3位を占め、2次感染によるものは特に重症化しやすい。厚生労働省によると、新型コロナの流行の初期では、死者の8割以上を70代以上が占め、特に80代以上は感染した約3割が死亡した。その多くは肺炎症状を示していた。WHOは、「世界的に長寿命化が進んでいるため、高齢化は危険因子として今後の感染症予防の緊急課題である」と警告する。 人類が暮らしやすい環境を求めて都市に集中し、それが現在の高齢化社会を生み出したと言ってもいい。その結果、先進国の都市部でも感染症で死亡する人が増えているのは何とも皮肉なことだ。 (文中敬称略)
【Profile】
石 弘之 環境史・感染症史研究者。朝日新聞社・編集委員を経て、国連環境計画上級顧問、東京大学・北海道大学大学院教授、北京大学大学院招聘教授、ザンビア特命全権大使などを歴任。国連ボーマ賞、国連グローバル500賞、毎日出版文化賞などを受賞。主な著書に『名作の中の地球環境史』(岩波書店、2011年)、『環境再興史』(KADOKAWA、2019年)、『噴火と寒冷化の災害史』(同、2022年)など。『感染症の世界史』(同、2018年)はベストセラーになった。