坂口健太郎が「頭と心が別の人を愛する」役を演じて考えた、「愛すること」の意味
「ただの不倫」ではないからこその「軽やかさ」と「つらさ」
――本作における有村さんのお芝居にはどんな印象を持ちましたか。 彼女にとって、今まであまりやってこなかった挑戦になったのではないでしょうか。言葉を選ばずに言うと、今回の作品はドロッとさせようと思ったら簡単に出来たと思います。好きになってはいけない人を好きになってしまう様を湿度高く表現することもできたなかで、架純ちゃんは軽やかに芝居をしてくれました。 特にそれを感じたのは、駅でさえ子とミキ(成瀬の妻)が成瀬について思いをぶつけ合うシーンです。僕はその場にいませんでしたが、映像で芝居を観たとき、「このエピソードが決まった」と感じました。一人の男に対するそれぞれの主張を繰り広げるだけではなく、お互いの痛みもわかる――という塩梅が絶妙でした。 ――有村さんは「単なる不倫の物語に見えないようにしたい」と別のインタビューでおっしゃっていましたが、成瀬とミキが婚姻関係にあることが、本作のキーになっているように感じます。 個人的に決めていたのは、雄介のパーセンテージがどれだけ高くなったとしても、絶対にミキを忘れてはダメだということです。雄介の心臓が動いていたとしても、そこに成瀬がいなくなってしまうのは違うと思っていましたし、成瀬が雄介という海に沈んでいったとしても、ミキの存在がすくい上げてくれるのではないか、と考えていました。 それは、契りを交わしている相手だから。ただそのぶん、ミキのつらさもひとしおになったでしょうし、成瀬も「これは自分の心がそう思っているのか、雄介の心臓がそう思わせているのか」と葛藤したのではないでしょうか。 ミキのセリフで「不倫だったらよかった」というものがありますが、成瀬の気持ちが完全にさえ子に向かっていたら「仕方ない」と思えたかもしれないところを、本作はそうはなりません。成瀬はちゃんとミキのことを愛しているし、本人も「訳が分からないけれど心が向かってしまう。どうしたらいいかわからない」と困惑していて、契りがあるからこそ生まれた哀しみを描いています。 ただ同時に、成瀬は雄介のこともすごく愛していたんだろうなと感じています。自分の命を生き永らえさせてくれた彼に対して感謝があるから、「僕のリミットを延ばしてくれた彼が愛してきた人」という目でさえ子を見ている部分もあったのではないでしょうか。 ――『さよならのつづき』は様々な愛の形が描かれる作品だと言えますね。本作を通して、「愛する」という感情について改めた気づいたことなどありましたか。 僕は、愛情というものはどこか自己犠牲的なニュアンスが必要だと思います。恋をして好きになったときは「求める」部分が多いかと思いますが、それが愛にまで到達したときに、その人のために何かをしてあげたいという想いが芽生えるのではないかと。ただ、それが行き過ぎるとエゴイズムになってしまう。愛憎という言葉があるように、愛と憎しみは表裏一体なのだと思います。 ◇続く後編【「『坂口健太郎』に僕自身の心が追いついていなかった」俳優業10年を振り返り思うこと】では、企画段階で本作への出演を決めた理由や、俳優デビュー10周年を迎えて「変わったもの/変わらないもの」について語ってくれた。 スタイリスト/壽村 太一(COZEN inc) ヘアメイク/廣瀬瑠美 Netflixシリーズ「さよならのつづき」は11月14日(木)よりNetflixにて独占配信
SYO(映画ライター)