「今年は大きなコートでやるのが目標」テニス・加藤未唯が描く未来
2023年、激動の日々を過ごした。全仏オープンでの失格と優勝。タフでなくては務まらないテニス選手の描く未来とは。(雑誌『ターザン』の人気連載「Here Comes Tarzan」No.872〈2024年1月25日発売〉より全文掲載) [画像]テニス選手・加藤未唯
失格から4日後、優勝の栄冠をつかむ
昨年開催されたテニスの全仏オープン。その混合ダブルスで優勝したのが加藤未唯である。彼女にとって初めてのグランドスラム優勝でありながら、その後のインタビューでは、ほとんど喜びを表すことはなかった。 「表彰台ではうれしいともうれしくないとも言いませんでした。ただ、応援してくれた方々に対してお礼を言いたいのと、ボールガールへの謝罪。それに、パートナーとその両親とか、チームの方への感謝とかが一番だった。だから、スピーチはあんなふうになったんです」 なぜ、この言葉になったのか。それは混合ダブルス決勝の4日前、女子ダブルス3回戦に遡る。 この試合の第2セット、加藤がプレーの合間に相手コートへ打ったボールが、ボールガールを直撃してしまったのだ。わざとではない。それは、VTRを見れば誰でもわかる。しかし、これでペアは最初に警告を受け、さらに相手チームの抗議により失格になった。 後日、PTPA(プロテニス選手協会)は、“不当な判定、偶然の出来事で攻撃的ではない”と表明したが、加藤はそのことにより、苦しみ続けた。パートナーや応援してくれた人に対して、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。 「私の打ったボールが当たってボールガールは泣いてしまったし、もう大会にいられない、居場所がなくなったという怖さをすごく感じました。それで殻に閉じこもるようになってしまった。 でも、いろんな人から、元気出してって励ましてもらったりして。まだ自分はここにいていいと少しずつ思えるようになりました」 この翌日が混合ダブルスの準々決勝。気持ちはもちろん引きずっていた。ところがペアを組んだドイツのティム・ブッツ選手が“あの判定はおかしい。辛かったらもうやめてもいいよ”と、言ってくれた。 「準々決勝のコートが、失格になったコートと一緒だったんです。入場したときにブーイングされたらどうしようと思ったんですが、そういうのもなくて温かく迎えてもらえたので、とてもうれしかった。 ただ、混合ダブルスで決勝に行かないと、感謝や謝罪の言葉を言う機会がない。だから必ず勝って、自分の思いを伝えたいとすごく思っていたんです」 失格から4日後、優勝の栄冠をつかむ。この間は、彼女にとって経験したことのない、激動の時間だったに違いない。そして、優勝のインタビューでは予定通り、謝罪と感謝に徹したのである。 ただ、やはり…、「子供のころから夢見ていたタイトルだったのですごくうれしかったです」と、ニッコリ笑うのであった。