腸の健康を支える食物繊維の働きと摂り方を管理栄養士に聞きました。
発酵食と食物繊維それぞれの働きと、相互関係を女子栄養大学 栄養クリニック教授の蒲池桂子さんにわかりやすく教わりました。
【腸内細菌を元気にし、掃除と片付けもする食物繊維】
腸の健康を支える、2種類の食物繊維。
食物繊維の健康効果がきちんと解明されたのは、意外に最近のことです。それまでは、繊維質の食材が便秘の解消に役立つ程度のとらえられ方で、食感が悪い「食べ物のカス」と考えられていました。 カスと思われていた成分が、腸を整え、健康を支える働きをもつことがわかったのは20世紀中頃から。その後、急速に研究が進み、食物繊維はヒトの消化酵素では分解できない成分であることがわかりました。 食物繊維とは炭水化物の一種ですが、人間が消化できない糖でできているものをこう呼びます。炭水化物は糖質と食物繊維を総称したもので、糖質の中でも消化吸収されて人間が利用できるものを特に糖類と呼びます。これらの糖類は消化酵素によって細かく切断され、小腸から吸収されます。 一方の食物繊維は、ヒトの消化酵素では切り離せないため、そのまま大腸へと進んでいきます。 人間には分解できない食物繊維ですが、腸内にすむいわゆる善玉菌(有用菌とも呼ばれる)はこれを分解することができるため、栄養として利用しています。食物繊維を食べた善玉菌は、乳酸や酢酸、酪酸といった健康に役立つ酸を作り、腸内環境を整えくれます。食物繊維をエサにして善玉菌が生み出したものが私たちの健康を支えているイメージです。 食物繊維には2つの種類あります。モソモソとして水に溶けない「不溶性食物繊維」と、水に溶けて一見繊維には感じられない「水溶性食物繊維」です。 不溶性食物繊維は、いもや根菜類に多く含まれる筋のようなものです。水溶性食物繊維は海藻や野菜のヌルヌル、ネバネバと感じる粘性のタイプと、サラッと水のようで、ほとんど存在が感じられない水性のタイプがあります。 水溶性食物繊維も不溶性食物繊維も善玉菌のエネルギー源になるのは共通で、さらにそれぞれに長所があります。 水溶性食物繊維の特徴は水に溶けること。水分をたっぷり抱き込んで膨張する性質があります。胃でふくらんだ食物繊維は、まず満腹感につながるので、食べすぎを防ぐ効果があります。 さらに、ふくらんだ食物繊維は消化管内をゆっくりと進むので、糖が一気に吸収されず、急激な血糖値の上昇を抑えます。ゲル状になった食物繊維が胆汁酸を包み込んで大腸に運ぶため、不足した胆汁酸を補うために血中コレステロールが減少する効果も。余分な糖や脂質、有害物質なども抱き込んで排出する利点もあります。 不溶性食物繊維も水分を吸って同様の働きをするとともに、繊維状の硬い組織なので、ほうきでゴミを掃除するように、滞った物をかき出して排出する働きがあります。同時に腸の内壁を刺激し、動きを活発にする効果もあります。 食物繊維のメリットは「出す」こと。排出できないことは思っている以上に健康に影響します。 ただし、いずれも大事な栄養素まで排出してしまうことがあるため、摂りすぎによるビタミンやミネラルの不足にもは注意が必要です。 食事摂取基準で目安にされている18~20gを目標に、自然な食事から摂るのがベスト。 新しい食物繊維? レジスタントスターチ。 最近注目されているのが、レジスタントスターチと呼ばれる、消化されにくい糖質(下参照)です。中でも加熱によって一度α化したでんぷんが、冷めてβ化すると消化されにくくなることから、ふかしたいもを冷蔵庫で冷やしたり、炊きたてご飯より、冷えたおにぎりを食べるほうが吸収されにくく、さらに腸内細菌のエサにもなって一石二鳥の効果があるとされています。