「V型エンジン」が高級車にめっきり採用されなくなった根本理由
技術進化やコスト削減の影響も
技術の進化やコスト削減の影響も、V型エンジンが減っている理由のひとつだ。 直列エンジンは設計がシンプルで、製造コストの削減やメンテナンスのしやすさがメリット。シンプルな構造で組み立ても容易になり、部品の数も少なくなるため、全体的にコストを抑えられる。実際、直列エンジンの製造コストはV型エンジンに比べて20~30%安いといわれている。 さらに、ハイブリッドシステムは燃費向上だけでなく、静かさや加速性能の向上も実現するため、消費者の好みにも合っている。HVは電動モーターとエンジンを組み合わせ、低速時はモーターのみで走行し、高速時はエンジンが効率よく動くことで、燃費を大きく向上させる。特に都市部での短距離移動で効果を発揮し、エンジンが不要なときはモーターが静かに作動するため、静粛性も高まる。 例えば、メルセデス・ベンツは直列6気筒エンジンを採用し、効率的な設計でコスト削減を実現している。新技術を活用することで燃焼効率を高め、排ガスも削減。さらに、このエンジンには電動ターボチャージャーや48ボルトのマイルドハイブリッドシステムも組み合わせ、優れたパフォーマンスと環境性能を両立させている。
V型エンジンの行方
では今後、V型エンジンはどうなっていくのか。環境規制や消費者のニーズを考えると、V型エンジンが再び主流に戻る可能性はかなり低い。 前述のように、世界的な環境規制の強化に加えて、燃費効率が悪いというV型エンジンのデメリットも影響していて、各メーカーはより環境に優しいエンジン技術や電動化技術の開発に力を入れている。 また、消費者の好みも電動化に影響を与えている。多くの人が環境への意識を高めていて、特に若い世代は化石燃料を使う従来のエンジン車よりも、HVやEVを選ぶ傾向が強まっている。 インドの調査会社フォーチュン・ビジネス・インサイトによると、世界のEV市場規模は2024年には6714億7000万ドル、さらに2032年までに1兆8910億8000万ドル(約289兆円)に成長すると予測されている。予測期間中の年平均成長率は13.8%だ。2023年にはアジア太平洋地域が51.24%のシェアを獲得し、EV市場を独占している。 また、コスト削減の面でもV型エンジンは厳しい状況だ。V型エンジンは構造が複雑で製造コストが高い。一方、直列エンジンや電動モーターはシンプルな設計で、コストを抑えやすい。自動車メーカーは競争が激しい市場で利益を確保するため、コスト削減のためにシンプルな設計のエンジンを採用する傾向が強まっている。 こうした状況を踏まえると、V型エンジンが再び主流になる可能性はかなり低いだろう。自動車業界は環境規制とコスト競争のプレッシャーを受けて、電動化やハイブリッド化への移行を加速させている。将来的には、環境に優しい電動車が市場を支配し、V型エンジンは一部の高性能車や趣味性の高い車に限られるかもしれない。
木村義孝(フリーライター)