「ふるえ」は治らないから…と諦めない! 薬でダメなら超音波治療
ふるえは、よくある症状だ。どんな原因があるのか、岐阜県の中部国際医療センターでふるえ・パーキンソン病センター長を務める中坪大輔医師(脳神経外科専門医)に聞いた。 発熱とふるえの原因は納豆だった? 納豆菌による菌血症の症例報告 日本国内で5例目 同じ「ふるえ」でも、「コップを持つと手がふるえる」「安静時にふるえる」「誰かにお酌されるとふるえる」など、患者さんが訴えるふるえはさまざまだ。 「ふるえ以外の症状がないか、どのようなシチュエーションでふるえるかが診断のポイントのひとつになります。ふるえが出た時の様子を携帯電話で動画撮影し、持参する人もいます」 緊張や寒さなどによる生理的なふるえは誰にでも起こる。これに対し、病気が原因のふるえもある。よく知られるのがパーキンソン病だが、実は最も多いのが原因不明の本態性振戦だ。10人に1人ともいわれていて、患者数はパーキンソン病の20倍以上となる。 「ふるえ以外の症状はなく、安静時は問題ない。しかしコップを持ったり文字を書いたりと特定の行動時に症状が見られ、片側から発症しても5~10年以内に両側にふるえが出る。左右差がある状態で長期間、という場合は他の病気を疑います」 手のふるえが多く、頭もふるえる人が3割ほど。声、下肢、体の軸のふるえはまれだ。加齢とともに症状が進むが、一般的に進行スピードは緩やか。ただし、ストレスや緊張があると一時的にひどくなる。 治療はまず薬。β遮断薬、抗てんかん薬、抗不安薬を必要に応じて使い分ける。薬では効果が乏しい、副作用がつらい、日常・社会生活の維持が困難という場合、外科治療を検討する。 ■骨の状態によっては改善率80~90% 保険適用の外科治療では、RF(高周波脳凝固術)とDBS(脳深部刺激療法)が20年以上行われており、そこに2019年、FUS(集束超音波治療)が加わった。本態性振戦は小脳と大脳を結ぶネットワークの異常が一因と考えられていて、外科治療は中継地点である視床にアプローチをする。 RFは局所麻酔で頭蓋骨に小さな穴を開け、脳の深部に高周波をあて熱凝固する。DBSは脳に電極を、前胸部の皮膚下に刺激装置をそれぞれ埋め込み、リードでつなげて脳の特定部位を電気刺激する。一方、FUSはMRI画像を用いて脳深部に超音波を集中照射し熱凝固させる。 「FUSは穴を開けず侵襲度が低い。出血や感染リスクがゼロで、入院期間は2泊3日程度。埋め込みもしないので、治療後にMRIや運動の制限がありません。デメリットは、骨の条件で超音波の通りやすさに差が出る点。CTで調べ、結果によってはFUSが不適応となることがあります」 治療前に髪の毛を全て剃らなければならないのも、人によってはデメリットと感じる。 「FUSによる改善率は、超音波が通りにくい骨の人も入れて70%程度。通りやすい人だけでみると80~90%です」 合併症で舌や唇のしびれが出ることもあるが、数週間以内に治ることが多い。 「FUSで効果が不十分であれば、RFやDBSを検討します。ただ、RFやDBSを先に行っている場合、その後にFUSはできません。FUSは症状が軽いうち、若いうちの方が効果が高く、外科治療を受けるならタイミングも重要。薬物治療で日常・社会生活に支障があると感じているなら、早めに医療機関を受診することをお勧めします」 FUSは、行える医師、施設に基準があり、現段階で実施施設は全国18カ所。中部国際医療センターのようにRF、DBS、FUSを全て行っているところとなると、さらに限られる。治療にはそれぞれメリット、デメリットがあるため、どの治療も行っているところを受診することが理想的だ。 外科治療を行うのは外科医になり、本態性振戦を診る内科医の中には、外科治療に対する抵抗感からか、紹介のタイミングが遅れることも。念頭に置いておきたい。 ■パーキンソン病との違い 本態性振戦のふるえは「行動時」「左右対称」であるのに対し、パーキンソン病は「安静時」「体の左右差あり」。パーキンソン病では歩行障害、動作緩慢とふるえ以外も見られる。ただ、パーキンソン病ではふるえ以外の症状に乏しい振戦優位型もあり、鑑別が難しい。「本態性振戦と診断されているが、実はパーキンソン病」といったケースもあるので、なかなか改善しない場合は、専門的な施設や神経内科の受診を。