IT企業元役員がなぜ「草むしり」を仕事に?ネット業界の知見を活かした新たな植木業
これまでと全く違う人生が見えた
役員までも務め、順風満帆にIT業界のキャリアを積み上げてきた梶野さんだが、23年の暮れにpopInの退職を決意。転機が訪れたきっかけは新型コロナウイルスだ。 「それまではとにかく夢中で働き続けていました。住まいは逗子なので、毎日片道2時間かけて会社のある六本木まで出社し、夜は取引先との会食も頻繁。終電に乗って深夜に帰宅する日々を送っていたことに、疑問すら抱いていませんでした。 それがテレワーク生活に入ったら、東京への通勤時間が無駄だと気づいてしまったんです。同時に、海も山も近くにある今の住まいの魅力を再発見しました。 昼休みに裏山で筍を掘ったり、海岸でPCを開きながら朝の会議に参加して同僚を驚かせたり。コロナ禍が明けて会社出勤が再開したものの、以前のような毎日はもう送れないなと実感しました」 家族と過ごす時間が増えたことも、人生を見直すきっかけになったという。ワークライフバランスの必要性に気づき、心がより豊かになる働き方を考えるようになった。 「子どもたちが高校や大学に進学したことで、教育資金の目処がついたタイミングでもありました。必死に稼がなければという思いから、一緒に働きたい人とともにやりたいことを達成したいという気持ちが強くなっていったんです。 僕自身の社会人生活も、ちょうど折り返し地点。取締役として経営者の視点も経験できたので、元気に働いていられるうちに独立して、新しいことにチャレンジしようと決めました」
46歳の“初心者植木職人”が誕生
23年12月、popInの部下2人とともに、Integrasol(インテグラソル)合同会社を設立。これまでの培ったスキルと経験をもとに、インターネット広告代理店業務やメディアコンサルティングを主に手掛けている。 「本業以外に面白い新規事業を始めたい」と考えていた梶野さんが目をつけたのは、植木業だった。 「きっかけは、自宅で薪ストーブを使っているため、チェーンソーといった園芸用機器の取り扱いに慣れていたことと、薪をいただく植木職人さんの知り合いがいたこと。さらにたまたま植木屋を始めていた元同僚と情報交換をするうちに興味が湧きました。 植木業界は職人さんの高齢化による廃業で人手不足に陥っていることや、AI化や機械化がなかなか進まないという現状を聞いて、自分の強みを活かせるのではないかと。46歳でまた初心者として新しい業界に飛び込めることも、楽しそうだと思ったんです」 作業用の軽トラックを購入し、マッチングプラットフォームで仕事を受注し始めたところ、すぐに案件が舞い込んできた。請け負うのは庭木の植え替えや草刈り、芝張り、植栽など庭の手入れが中心だ。 「本業のデジタル仕事と植木業のアナログ仕事は正反対だろうと思われますが、さまざまな相乗効果が生まれています。 集客プラットフォーム上でよりアクセス数を増やすための見せ方や、顧客へのレスポンスの速さなど、マーケティング戦略でこれまでの経験を活かせるところはたくさんありました。本業のアイスブレイクの時のトピックとしても盛り上がります(笑)」 全く違う畑ながら、意外にも本業と両立できることにも驚いたという。 「植木屋仕事は物理的に時間と場所を拘束されますが、インターネット事業はPCさえあればどこでも対応できます。限られた時間で効率的にパフォーマンスを発揮できるよう、より考えて仕事をするようになりました」