ここにきて日本代表監督候補に名将・ベンゲルの名前が浮上してきた理由とは
唯一の白星は前半開始早々に日本へPKを与え、退場者も出したコロンビア代表とのグループリーグ初戦で挙げたもの。数的同数の相手には勝利していない結果を冷静に分析し、ロシア大会以降への継続性を託すうえで意見が割れたからこそ、関塚委員長の言う「4、5人」の名前が出たのだろう。 そのなかにおける日本人候補は、西野ジャパンでコーチを務めた森保氏となるはずだ。ただ、他にJ1で結果を残している日本人監督、たとえばFC東京の長谷川健太監督(52)や名古屋グランパスの風間八宏監督(56)は、シーズン途中という状況もあって候補に入れるのは難しい。 ならば、外国人監督の筆頭候補として1990年代半ばにグランパスの監督を務め、22年もの長期政権を築いたアーセナル監督時代にJFAから2度の代表監督就任のオファーを受け、退任後はフリーの状態が続いているベンゲル氏が浮上してくるのは自然の流れと言っていい。 あまりにも絶妙のタイミングと言うべきか。19日付けのイギリス紙『デイリー・メール』は、監督業を続けたいと希望している名将の動向について「日本は長年の希望だったベンゲルを迎え入れるために、トップターゲットとして狙いを定める動きを見せている」と報じた。 すでに日本の関係者がベンゲルと接触していた、という情報も流れている。 関塚委員長は「今日は朝からずっと会議だったので」と、イギリス発の報道を知らないとかわした。10月で69歳になる高齢と、アーセナル時代の晩年に年俸が日本円で10億円を超えていた点はネックになるが、森保氏がもち合わせていない、ハイレベルの舞台で采配を振るい続けた経験はある。20年以上も前の話になるが、日本を直接知っていることも然りだ。
惨敗した2014年のブラジル大会以降、JFAは後任の代表監督にワールドカップなどの大舞台における経験値を求めてきた。ハビエル・アギーレ、ヴァイッド・ハリルホジッチ両監督は条件を満たしていたが、後者を電撃解任し、ワールドカップを指揮した経験のない西野監督を後任にすえた今年4月に、JFAの田嶋幸三会長(60)はこんな意向を示していた。 「そのロジックを続けていくと、今回ならば岡田(武史)さん以外の日本人は日本代表の監督ができなくなってしまう。そこは今回のワールドカップ後に、あらためて考えなければいけない」 ロジックとは要は経験を次期監督に求めることであり、コーチとして入閣した森保氏に対するハードルを下げるための布石かと思われた。しかし、技術委員会で確認された監督要件に対して、関塚委員長は「高いレベルの(経験という)ところは含まれています」と変わっていないことを示唆している。 仮定の話に答えれば具体的な名前が独り歩きするという理由で、森保氏やベンゲル氏に関する質問が飛ぶたびに、関塚委員長はノーコメントを貫いた。森保氏を選んだ際のネックになる、五輪代表監督との兼任が物理的に難しくなる点にも「一般論としても、そこはちょっと」と明言を避けた。 来週26日には、JFAの最高議決機関である月例理事会が開催される。そこまでに人選を一任された関塚委員長のなかで候補が一本化され、先方へ提示されたオファーが内諾されれば、次期日本代表監督候補として理事会へ推挙・承認される流れになる。 「次の理事会で決まるのか、あるいは理事会後に少し延びるのかは、これからの進捗状況次第だと思っています。まだ一任を受けた段階なので、しっかりと吟味していきたい」 次回カタール大会までの4年間を託す決断となるとあって、関塚委員長は慎重な姿勢を貫くことを忘れなかった。しかし、今後のスケジュールを見れば東京五輪世代のU-21代表が出場するアジア競技大会(インドネシア)が8月18日に開幕し、終了後の9月7日には新生A代表の初陣となるチリ代表との国際親善試合(札幌ドーム)が待つ。残された時間はそれほど多くない。 (文責・藤江直人/スポーツライター)