新3階級王者田中の勇気と木村の誤算。名古屋名勝負はいかにして生まれた?
田中の勝因は、畑中清詞会長のコメントに集約されていたので引用させてもらう。 「くっついて、がちゃがちゃ。(パンチは)効いていないが嫌になる。それに負けず、気持ちで向かっていったのが勝因。今まで(木村に負けた相手は)、そのこちょこちょ作戦に押し出され、心を折られる。だが、折られることなく、対等に戦い、テクニックを使い、自分が打つとサイドへ動く。離れた時間も作るが、そればかりだと(木村は)追いかけるのが好きだから止まって打ち合った。相手に触らせずポイントだけを取る考えではなかった」 勇気ある選択だった。 1ラウンドから田中はリスクを覚悟して木村のフィールドであるインファイトを買って出た。 「しっかりと打ち合うことが頭にあった」 木村も「それも想定していた」というが、スピードとテクニックのレベルが、これまでの相手とは違った。 王者は、右のガードが下がるのが課題だったが、2ラウンドには、右のダブルにあわせて、左フックをカウンターで被弾した。木村の膝が泳ぐ。おそらく田中が、ここがナチュラルウエイトならば倒していただろう。 「確かに1、2発左フックが効いた。右目が腫れたのもそのパンチ」 3ラウンドには、もう田中が、木村の大振りのパンチを見切っていた。スウェーのテクニックとステップで、木村のパンチを外してからメリハリをつけた右ストレートを打ち込む。ペースは挑戦者へ。だが、王者も5ラウンドに盛り返す。7ラウンドには大きな右フックが、タイミングよく当たり、バランスを崩した田中はキャンバスに手をついた。だが「ダウン」とは認定されず「スリップ」と判断された。 王者が体を密着させてボディを乱れ打つが田中はひるまない。 「ボディを打っても打ってもね。彼の気持ちが伝わってきた」と木村の回想。 心の折れた方が勝者の資格をなくす。 終盤になると木村の右目の視界はなくなっていた。 「焦った。止められるんじゃないか、倒されるんじゃないか、と」 そこも王者の誤算だった。 田中は、華麗なステップワークとインファイトを絶妙に使いわけた。パンチを上下に散らし木村のガードが緩むと右ストレート。憎いほどのテクニックに加えて手数でも圧倒した。